田畑竜介Grooooow Up

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新疆ウイグル自治区の人権問題~内部資料流出と国連の対応(下)

新疆ウイグル自治区の人権問題~内部資料流出と国連の対応(下)

5月23日の日米首脳会談、その翌日のクアッド(日本、アメリカ、オーストラリア、インド)の首脳会合は、いずれも中国への抑止力が最大のテーマだった。その中国の西部、新疆ウイグル自治区での人権抑圧に対し、国際的な懸念が広がっているが、ちょうど今週(5月23日~28日)、国連で人権問題を担当する高官が、新疆を訪れている。東アジア情勢に詳しい、飯田和郎・元RKB解説委員長がRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』で分析した。

 

国連の弁務官を受け入れた中国「人権問題の調査ではない」

新疆ウイグルでの人権問題をめぐって、大規模な人権侵害、またジェノサイト(=民族の大量虐殺)が起きているとして、アメリカ、イギリスなどが冬の北京オリンピックを「外交ボイコット」をしたのは記憶に新しい。これら国々はウイグルでの人権侵害を理由に昨年3月、対中制裁を発動している。23日の日米首脳会談後に発表された共同声明では「新疆ウイグル自治区の人権問題について、深刻な懸念を共有する」という文言もあった。

そんな中、国連で人権問題を担当するトップ、国連人権高等弁務官が5月23日から28日まで、新疆ウイグル自治区最大の都市ウルムチ、それに「シルクロードのオアシス」と呼ばれる地方都市カシュガルを訪問している。新疆での人権侵害を証明する内部資料が大量に外部流出した、と世界14のメディアが一斉に報道したが、この国連人権高等弁務官の新疆訪問にタイミングを合わせたようにも思える。

国連人権高等弁務官を務めているのは、南米チリ出身のミシェル・バチェレ氏だ。弁務官は国連事務総長の指示の下に活動し、その内容を国連の人権理事会と総会に報告する。具体的には、①地球上のすべての人があらゆる権利を享受できるよう人権の促進と擁護を図る。②人権侵害を防止し、政府との対話や人権のための国際協力を進める――ことが任務だ。

新疆ウイグル自治区の弁務官訪問は、西側社会がずっと求めてきた。バチェレ氏は新疆入りする前の23日、中国の王毅外相と会談した。王外相はバチェレ氏の訪問について「国連との協力を強化する旅であるべきだ」と述べ、人権問題の調査ではないことを重ねて強調。「少数民族の権利保護を重視してきた」などとして、「中国の人権発展の実践は歴史の検証に耐え得る」と主張している。中国当局は従来から「少数民族の権利や伝統を尊重している」「人権侵害などしていない」との立場だ。

ただ、日米、それにヨーロッパなど40数か国は、新疆の人権状況について「深刻な懸念がある」との共同声明を国連人権理事会で昨年6月に発表した。声明では「新疆で100万人を超える市民が恣意的に拘束され、ウイグル族やその他少数民族への監視など、基本的な自由やウイグル文化への制限を示しているとの信頼できる報告がある」とも非難している。さらに、少数民族への拷問、強制的な不妊手術や性的暴行の報告もあるとしている。この声明は、国連人権高等弁務官の新疆訪問も要求していた。今回のバチェレ氏の現地入りは、中国側が要求に応えた形だ。

「職業訓練センター」で少数民族を“再教育”

ウイグル族など少数民族の間には習近平政権が「我々に対し、漢民族への同化政策を進めている」との反発は根強い。2010年代に入って、新疆ウイグル自治区ほか首都・北京でも爆弾テロが相次いだ。当局は「危険分子」を再教育するために、これら少数民族を施設に送り込んでいる。中国政府はこれを「職業訓練センター」と称している。

中国国内各地には1990年代まで、数百~数千の「労働改造所」という施設があった。その名前のとおり「反革命的な思想を持つ者を、労働によって改造する」という矯正施設だ。新疆の職業訓練センターも、それと同じ流れで「中国共産党の指導に従わない人物」と認定されたウイグル族らを収容している。そのセンターから出所し、海外に逃れた人の中には、過酷な拷問や劣悪な環境を告発している者もいる。

弁務官は新疆の本当の姿を視察できるのか?

国連人権高等弁務官事務所は、バチェレ氏の訪問について「監視されない状態で社会の幅広い市民団体関係者と監視なしに接触できる、意味深いものであることが大切だ」と述べていた。また、2月に北京を訪れた国連のグテーレス事務総長は習近平国家主席と会談した際、「中身のある訪問」をできるよう要請した。だが、新疆の本当の姿を視察できるのか、疑わしい。

中国も国連の人権担当トップを受け入れるからにはと、さまざまな準備、つまり策を講じている。訪問直前の4月に、強制労働廃止に関する条約の批准を国会で決めている。輸出品の生産も含め、新疆では「強制労働が続いている」と指摘されるバチュレ氏が訪問するのを前に、先手を打ったようにみえる。

肝心のバチェレ氏の訪問内容だが、まだ、詳細は伝わってきていない。ただ、先ほど述べたように、中国側は「訪問は調査ではない」と強調している。多くの人々が収容されているとされる職業訓練センターを訪れることが仮にできたとしても、「都合よく整理された」場所しか視察できず、実際とは異なる景色を見ることになってしまっていないだろうか。また収容者への聞き取りも、型通り=例えば「ここの生活に満足している」「職業訓練を通じて、更生したい」など模範的な答えしか返ってこないかもしれない。

私たちの懸念を証明するように、バチュレ氏の訪問を前に、欧米メディアは「訪問先の都市の街頭から、監視カメラ多数が撤去されている」など、現地からの情報を伝えている。

中国側の宣伝のため?国連に不信感を抱くバイデン政権

国連人権高等弁務官の新疆ウイグル入りについて、アメリカ国務省報道官は早々に「深く懸念している。様々な制限を受けることが予想される」と表明している。「人権状況について完全かつ操作されていない評価をするために必要な調査を、中国が認めるとは思わない」と今回の訪問そのものに疑問を呈した。

バイデン政権は、国連にかなりの不信感を抱いている。「受け入れましたよ」「何もありませんでしたよ」という結果を作り出し、中国側の宣伝に利用されるのではないかと警戒しているのだ。

一方で、今月19日にはアメリカの国務次官がインド北部にあるチベット亡命政府をわざわざ訪れ、チベット仏教の最高指導者、ダライ・ラマ14世に面会している。ダライ・ラマは1959年、中国軍によるチベット制圧を前に、身の危険を避けるためにインドに亡命している。ノーベル平和賞受賞者でもある。

バイデン政権発足後、ダライ・ラマとの接触は初めてだ。当然、中国は「内政干渉だ」と反発しているが、アメリカ政府は、ウイグル、チベットなど中国の少数民族問題では妥協しない構えだ。秋の中間選挙を前に、アメリカ国内の目も意識している。

そのアメリカは来月6月「ウイグル強制労働防止法」を施行する。新疆ウイグルで採掘、生産された原材料や製品の範囲を拡大し、原則輸入禁止にする。

そんな中で、われわれ日本はどうだろうか。秋には日中国交正常化50周年を迎え、中国と事を荒立てたくないという考えもあるかもしれない。しかし、50周年といえば、米中関係が大転換したアメリカのニクソン大統領の中国電撃訪問から、こちらも今年で50周年だった。ウクライナへ侵攻したロシアへの対応も絡み、日中・米中とも、とても節目を祝うムードにない。

22日に行われた日米首脳会談によって、中国を真正面に見据えた同盟国、さらには友好国を含めた「中国封じ込めシフト」が新しい段階に入ったといえる。その中で、少数民族問題を含めた中国の人権問題は、大きなファクターだ。国連人権高等弁務官のウイグル訪問が、中身のないものに終われば、摩擦はさらに広がるだろう。

 

飯田和郎(いいだ・かずお) 1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。

日曜劇場『オールドルーキー』

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