田畑竜介Grooooow Up

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「25年前の約束」はどこに?習近平主席「香港統治の成功」を宣言へ

「25年前の約束」はどこに?習近平主席「香港統治の成功」を宣言へ

「学校を卒業してからちょうど10年」「結婚記念日」…なにかの節目を迎えると、人はその節目となる日がスタートした時の自分を思い出すことがある。東アジア情勢に詳しい、飯田和郎・元RKB解説委員長は「25年前(=四半世紀前)の6月30日、自分が走り回っていた取材の記憶がよみがえる」という。6月30日放送のRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』で振り返った。

 

「一国二制度」は約束の50年間の半分の25年間で反故に

1997年6月30日は、イギリスが香港を植民地支配した最後の1日だ。翌日7月1日午前0時をもって、香港の主権が中国へ返還された。この返還の日をはさんで1週間ぐらい、私は香港で取材していた。

 

歴史のおさらいをしよう。アヘン戦争の後に、香港島は当時の清朝から割譲され、イギリスの植民地となった。1898年には、その香港島のほかに九龍半島なども含め、99年間の期限付きでイギリスの租借地となった。1898年からかぞえて、丸99年になるのが1997年だった。

 

日付をまたいで開かれた式典には、当時の中国のトップ、江沢民国家主席。イギリスからは王室のチャールズ皇太子、ブレア首相らがそれぞれ出席した。式典の行われた6月30日の夜、香港は大雨だった。私は外の様子を眺めながら、同僚と「この雨は香港のこれからを暗示しているのではないだろうか」と話していた。

 

返還に際して、中国とイギリスが結んだ合意は「資本主義体制や生活様式を返還後も50年間、維持する」と保障する内容、すなわち「一国二制度」だ。中華人民共和国という一つの国家に、中国本土でのシステムと香港でのシステムの二つを設けるという、高度な自治を保障するものだった。それによって世界から情報や人材、資本が香港に集まり、中国本土の安定的な経済成長にも寄与する、という考え方だ。両国の約束には、香港の憲法にあたる香港基本法に盛り込まれた。「言論や報道の自由」「デモやストライキの権利」など、中国本土では制限された各種の権利を認めていた。

その約束に基づいて、香港は中国へ返還されたはずだ。それが、約束の50年間の半分の25年間で反故にされてしまった。だから四半世紀が過ぎたいま、大雨の返還当日を思い出す。

強引とも思える習主席の感染防止対策

そういう中で、あす7月1日に開かれる返還25周年式典に習近平国家主席が出席する。2020年の新型コロナウイルスの感染拡大以降、習主席は外遊を控えてきた。中国本土以外を訪問すれば、これが初めてになる。

 

香港のコロナ禍は収まっていない。そのため、習主席はじめ、中国の指導者たちに感染させないように、出迎える側の香港の高官や警備担当者、また中国国旗を振って迎える児童たちが1週間、隔離させられている。この間、児童たちの授業はオンラインだ。

 

香港の「一国二制度」とはそもそも、中国本土と異なる、香港の自由な雰囲気を象徴するもの。強引とも思える、こういうやり方においても、「一国二制度」が崩壊したようだ。いずれにせよ、そのような態勢を敷いてでも、習近平主席がやってくるなら、香港の統治について、並々ならぬ意欲を感じる。

返還20周年演説の“二つの狙い”が現実に

習近平主席は、5年前の返還20周年にも香港を訪れた。この時は式典での演説で「中央の権力に対するいかなる挑戦も絶対に許さない」と強い調子で述べ、香港独立論をけん制した。当時、この演説の狙いは二つあるとみられた。一つは国家の分裂を図る政治活動を禁止する条例・法律の早期制定。もう一つは、共産党の考え方を柱にした愛国教育の導入だ。

ただ、5年前の香港では、習近平主席の訪問に反発する市民ら6万人以上が参加するデモが実施されたし、その中には愛国教育反対のスローガンも目立った。それが、今回はデモすらできなくなった。

 

そして、演説の狙いとみられた二つが、わずか5年間のうちに現実のものになった。すなわち、国家の分裂を図る政治活動を禁止する香港国家安全維持法ができた。香港で大規模な民主化デモが連日行われていた2019年の翌年だ。香港政府や、共産党への批判とみなされれば、「違法」とされ、処罰される。また、緊急時などには捜査令状なしで強制捜査ができるなど、公安当局に数々の強い権限が与えられている。

 

7月1日に就任する香港の行政部門のトップの行政長官、それにナンバー2の政務官ともに、治安や公安のプロフェッショナル。行政畑出身ではなく、異例のことだ。北京の中央の意向が色濃い人選で、中国が香港の不安定要因を封じ込めようとする意志の表れだ。

 

もう一つの愛国主義教育について、イギリスのBBCや、フィナンシャル・タイムズによる報道で明らかになったことがある。香港の中学校や高校で、この秋から使用される新しい歴史教科書の内容だ。それによると「香港はかつてイギリスの植民地ではなく、占領地だった」と位置づけている。すなわち「ある国が国外の領土を植民地と呼ぶには、その領土の主権と統治権を持つこと」「中国は不平等条約を認めず、香港は『国家の主権』を喪失していなかった。だから植民地ではない」と主張しているのだ。自らの尊厳を優先した、歴史事実の塗り替えと言っていい。

今年の式典で習主席が語るのは?

習近平主席が返還25周年式典で何を訴えるか。私は、この5年間における彼らのいう「成果」を強調するのではないかと予想している。民主派を封じ込め、共産党政権のいう「安定」を実現した成果を高々とうたい上げるのではないだろうか。この秋に開く共産党大会を前に、香港統治を「成功」させた実績を誇示し、3期目入りを確実にする狙いがある。

 

今年5月、習近平主席のある発言が波紋を広げた。新疆ウイグル自治区の人権問題に関し、現地視察した国連の人権担当官との会談で発した「教師面(づら)して偉そうに説教する必要はない」という一言だ。明日の香港の式典での演説も、国外向け、国内向けに強硬なメッセージを発信するかもしれない。香港で発する強権を、習近平氏自身の権力に結び付けている。

国際都市・観光都市としての香港はどうなる?

日米の首脳は5月の共同声明で、わざわざ香港についても言及していた。「両首脳は、香港における動向について、深刻かつ継続する懸念を共有した」とあった。香港の国際都市としての役割も損なわれるようで、無関心でいられない。

 

香港は、自由でエネルギッシュだった。香港に進出する日本の企業、また、観光都市・香港ならではの魅力にひかれ、訪れてきた日本人に、今も香港はどのように映るのか?そう心配する人は少なくないと思う。

飯田和郎(いいだ・かずお) 1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。

 

火曜ドラマ『ユニコーンに乗って』

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