田畑竜介Grooooow Up

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新疆ウイグル自治区 国連機関が人権侵害を認定…問われる国家の品格

新疆ウイグル自治区 国連機関が人権侵害を認定…問われる国家の品格

国連人権高等弁務官事務所が、中国・新疆ウイグル自治区の人権問題を取り上げた報告書を公表した。現地のウイグル族らに対する中国当局による弾圧を事実として認め「深刻な人権侵害が続いてきた」と断定した。東アジア情勢に詳しい、飯田和郎・元RKB解説委員長は、RKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』で、この報告書のポイントと、それに対する中国特有の反応について解説した。

 

中国当局による人権侵害を断定した報告書

国連人権高等弁務官事務所はスイスのジュネーブに本部がある。そこが8月31日、中国新疆ウイグル自治区の人権問題を取り上げた報告書を公表した。報告書は英文で48ページ。ひと言で表現すると、「新疆ウイグル自治区では過去も現在も、対テロ戦略の名前のもとに『深刻な人権侵害』が起きてきた」としている。

 

詳しく見ていくと、中国当局がウイグル族など少数民族を、再教育施設と称する場所へ収容してきたことについて、「国際犯罪、特に人道に対する罪を構成する可能性がある」と断じている。

 

また、2017~19年には、本人の意思とはかかわりなく、収容者が拘束され、その施設内において「電気棒で殴られたり、女性がレイプを含む性的暴力を受けたりするなど、拷問や虐待が行われていた」との証言がある。その証言について「信頼性がある」と認めた。「恣意的な自由の剥奪」「非人道的な処遇があった」と断定している。

 

1948年に国連第3回総会で採択された世界人権宣言は、「すべての人民とすべての国とが達成すべき共通の基準」を定めた。人権宣言は、この「恣意的な自由の剥奪」を禁じている。中国は世界人権宣言に反している。

 

その再教育施設にはどのような人たちが、なぜ収容されてきたのか。報告書は「正当な抗議や宗教活動、またイスラム教徒の文化や習慣(たとえば男性が長いひげを生やしたりする)など、つまり、暴力と関係のない行為も、ウイグル族らへの取り締まり、施設に収容する理由にしている」と非難している。

 

アメリカ政府などは収容された少数民族の数を100万人以上と推定してきた。報告書は、拘束された人々を解放し、国際的な人権基準に沿った法制度に見直すことを求めた。国連の機関が独自の調査にもとづき、戦争犯罪などに並ぶ国際法上の重罪のおそれにまで言及した意味は大きい。

習近平政権が進める「宗教の中国化」

中国はなぜ、このような強硬な少数民族政策、宗教政策を進めるのだろうか?キーワードは「宗教の中国化」だ。中国の憲法も「信仰の自由」を保障している。ただし、習近平政権になってから、いわゆる「宗教の中国化」つまり、共産党に対する忠誠を、信仰より優先させるべきだとしてきた。

 

その支えとなる法律として、「国家安全法」「反テロ法」を次々とつくった。再教育施設は、これら法律ができた後に新疆ウイグル自治区各地に建設された。治安維持のためのこれら法律を根拠に、当局が強大な権限を振るってきた。

報告書に対する国際社会の評価は二分

ところで、新疆ウイグル自治区における人権弾圧といえば、今年5月に国外メディアで一斉に報道された、中国の内部文書、通称「新疆公安ファイル」が記憶に新しい。中国政府のコンピューターに、外部からアクセスしたもので、少数民族政策に関する文書や、幹部が指示した発言内容、再教育施設の収容者や内部の写真とみられる資料が大量に流失した。

 

今回の報告書は、事実を認定するにあたって、毎日新聞が報じたこの内部資料に加え、公式文書や統計を精査。当事者26人への聞き取りも繰り返した。

 

国際社会は、この報告書をどう評価しているのだろうか。ニューヨーク・タイムスによると、国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」の中国担当ディレクター、ソフィー・リチャードソンさんは、この報告書を「北京の嘘、ウイグル人へのおぞましい扱いを明らかにした」と評価した。

 

一方で、前向きに評価しない見方もある。報告書を発表した国連人権高等弁務官事務所のトップはミチェル・バチェレさん。南米チリの出身で、チリの大統領を務めた女性だ。高等弁務官としての彼女の任期は今年の8月31日だった。この中国の人権問題に関する報告書が出たのは、本部のあるスイス時間の8月31日深夜11時46分。退任の14分前だった。

 

このタイミングに対し、人権問題に敏感な欧米のメディアの中には「弱腰だ」と批判的な論調もある。国連が中国に気を遣ったり、中国との摩擦を避けたりしたのではないかとしている。

 

しかし、国連の難しい立場も分かる。バチェレ弁務官は今年5月、現地を視察したが、中国から行動を制限され、現地での滞在はたった2日間。調査は不十分に終わった。実は、中国は報告書を発表しないよう圧力をかけていた。そういう中で、今回の報告書公表は、国連の権威が最低限、保たれたと言える。

品格に乏しい中国スポークスマンの反論

報告書発表の数時間後、北京時間の9月1日、中国外務省のスポークスマンが、この報告書を強く非難している。「アメリカや一部の西側勢力によって計画され、つくり上げられたもので、完全に違法であり、無効だ」「偽りの情報を寄せ集めたものだ」と言い放った。ただ、私はスポークスマンの次の発言部分に注目する。

「正義をつかさどる60以上の国々が、連名で、国連人権高等弁務官事務所に書簡を送り、この虚偽の報告書に反対した」

 

「およそ1000の非政府組織=NGOや、新疆ウイグル自治区の各界の人々が、弁務官事務所に、異議申し立ての書簡を送った」

実際に、反対の書簡を送った国々は、中国の要請で行動している。その多くが、自分たちもさまざまな人権問題を抱え、欧米から非難されている。その一方で、中国から経済支援を受けている途上国だ。中国は周到な準備をしてきたのだ。

 

スポークスマンは同じ会見で、こう反撃している。

「インディアンなど先住民族へのジェノサイド(大量虐殺)、強制連行を伴う奴隷制度や人身売買、組織的な人種差別、銃を使った多数の市民殺傷…。国連人権高等弁務官事務所が、真に懸念すべきは、アメリカや西側勢力が行われてきた事案である」

欧米、特にアメリカで起きたことを並べ、皮肉っている。スポークスマンの反撃は、ここで紹介するのも憚られるほど、口汚いものも並ぶ。自らを大国と称し、国連常任理事国の立場にある国としては、品格の乏しさも感じざるを得ない。

 

また、中国は一貫して「国連中心の国際秩序づくり」を主張してきた。激しい口調で強弁すれば、するほど従来、重視してきた国連の機関から厳しく批判されたことによる衝撃の大きさがわかる。

 

ただ、報告書には中国に対する強制力はない。中国も自らの間違いを認めることはしない。少数民族に対する、著しい人権侵害は今後も、改善される見込みはない。

 

その中国では、5年に一度の共産党大会が10月16日から始まる。少数民族に、また近年では香港に対しても、人権侵害という強権的な手法を進めてきた習近平氏が、この党大会を経て、異例の3期目に入ることが決まる可能性が高い。国連安保理の常任理事国にふさわしくない、また責任ある大国と言えない隣国のリーダーと、日本は付き合い続けないといけないということでもある。

飯田和郎(いいだ・かずお) 1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。

 

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2022.09.26
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