田畑竜介Grooooow Up

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「極限の登山家」を迫力映像で描いたドキュメンタリー監督の想いとは

「極限の登山家」を迫力映像で描いたドキュメンタリー監督の想いとは

「垂直の世界」に挑む、極限の登山家の姿を描いたドキュメンタリー映画が、福岡市で公開される。監督を務めたのは、自身も登山を続けているジャーナリスト。ともに報道の世界に身を置き、系列局として連携してきたRKB報道局の神戸金史解説委員が、RKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』で、監督本人にインタビューし、この作品に込めた想いを聞いた。

 

「本当に尊敬できる登山家を取材したい」

神戸金史RKB解説委員(以下、神戸):登山家の凄まじい挑戦を描いたドキュメンタリー映画『人生クライマー 山野井泰史と垂直の世界 完全版』(109分)が、福岡市のKBCシネマで、11月25日から上映されます。監督はTBSテレビの武石浩明さん。彼と私たちRKB報道局は、ニュースの世界で、長く仲間として一緒に戦ってきました。武石さんは今、富山のチューリップテレビに出向して、報道制作局専任局長としてニュースに携わっています。いま、ZOOMがつながっています。武石さん、お久しぶりです。

武石浩明監督(以下、武石):お久しぶりです!

 

神戸:すごい映画ですね。圧倒されました、映像の強烈さに。登山家の山野井さんは本当に魅力的な方ですが、チャレンジしている「垂直の世界」に登っていく姿は、まるで横にいるような気分になってきて、観ていて肝が冷えていく。「こんなすごい世界に、なぜこの人は挑戦しているんだろう?」とずっと考えながら観ることになりました。山野井さんの取材は、いつから始めたんですか?

 

武石:最初に会ったのは30年ちょっと前なんですが、実際にカメラを回したのは26年前です。私も実は、大学時代に山岳部に所属していて、山を突き詰めようと思ったんですが、中途半端に終わりました。「自分の手が届かない、本当に尊敬できる登山家を取材したい」と思ったら、やはり山野井さんしかいない。26年前にヒマラヤに同行して取材した映像と、現代の山野井さん。2つのラインで、紹介していくことになりました。

神戸:武石さん自身も、中国のチョモロンゾ(7816m)を未踏ルートから初登頂している登山家じゃないですか。いま、立教大学の山岳部監督もしている。謙虚におっしゃいましたけど、武石さん自体もクライマーなわけです。私が東京報道部に赴任している時「今週末はどうするのかな?」と聞くと、たいてい「山に行っています」と言うのが武石さんでした。

 

武石:今、富山にいるので登り放題です。

 

神戸:時々SNSで見ていますけど、仕事もバリバリやり、映画を作りながら、山も登っている。すごいなと思いました。

エベレストに登っても「あまり価値がない」

神戸:武石さんから見て、山野井さんの魅力とは?

 

武石:例えば、今「エベレストに登った」と言っても、登山的にはあまり価値がないんですね。誰もやってないことをいかにやっていくか。エベレストが登られていなかったら、一番最初にエベレストに登る。次は「エベレストに無酸素で登ってみよう」とか、最先端の登山家は誰もやってないことをやっているんです。ずっと突き詰めていって、今は本当に難しいルートしか残っていません。

武石:ヒマラヤに残された「最後の課題」と言われるのが、26年前に挑戦した「マカルー」西壁だったんです。究極のチャレンジに「単独」「無酸素」で挑むことに魅力を感じて、取材をしました。

 

神戸:ペアを組まない「単独」、それから「無酸素」、「未踏ルート」。初めてのことをやるんだという姿勢がずっと一貫しているんですね、山野井さんは。

 

武石:そうです。中学時代から山登りにのめり込んで、それからずっと今に至るまで続けているということですね。

神戸:登山界のアカデミー賞といわれる「ピオレドール生涯功労賞」を、アジア人として初めて受賞したと聞いて「本当にすごい人なんだな」と思いました。武石さんは、私と同じ55歳。山野井さんは57歳になってもずっと挑戦を続けている登山家。「自分のできないことに挑戦してくれている人」というようなイメージなのかなと思いました。

 

武石:そうですね。「ピオレドール生涯功労賞」は、野球で言うと「殿堂入り」みたいなもの。中でも「世界の登山家によい影響を与えた」ということが評価されるんですよ。よりシンプルな形で難しいルートを行く。それを40年前からやり続けて「アジア人では彼しかいない」と選考した人が言っていました。

ミニマムでシンプルな生活にはあまりお金は必要ない

神戸:とは言いながら、大変な事故にも遭って、凍傷で手足の指を10本失っています。登山家としては、かなり致命的なことなのじゃないかと映画を見て思ったんですが、その後も山野井さんはいろいろなことに挑戦されています。今は静岡県伊豆に住んで、海岸の岩壁を見つけて「ここは誰も登ったことがないだろう」と登り始めているのを見て、かなりびっくりしました。

 

武石:彼が指を失った直後に訪ねたんですけど、すごく落ち込んでいたんです。でも、奥さんの妙子さんは(指を)18本失っていて、もっとすごいですけどね。彼も、入院している半年間だけ落ち込んでいたけれど、今は受け入れて、手足の指10本がない状態で一番ギリギリ登れるところは何かと発想を転換していくんですよね。年齢から当然体力も落ちてきますけども、今ある能力の中で一番自分がギリギリできる、しかも「世界」という視点も入れながらやれるのはどこか、と常に考えている人ですね。

 

神戸:ほとんどスポンサーなど取らずにやってきているって聞いたんですけど、どういうふうに生活してらっしゃるんですか?

 

武石:そこも素晴らしいところで、コマーシャリズムを徹底的に排除して、例えばバラエティーみたいなテレビに出たりとか、ガイドをしたりして稼ぐといったことをやらないんですよ。自分の登山だけに集中して。でも、彼らを見ていると「派手な生活をしなければ、ミニマムでシンプルな生活にはあまりお金は必要ないんだな」と思います。奥さんの実家から野菜とか米を送ってくるし、畑を耕して、魚を釣って食べていますから。趣味じゃなくて、生活のためにやっているんです。

「極限の人」の素顔は?

神戸:映画のパンフレットには「極限の人。」というコピーが使われていました。本当に突き詰めて、ただ、表情は非常に柔和で、笑顔がかわいい方だなという印象もありました。

 

武石:普段の山野井さんはすごく柔和で優しくて。ただ、山に入るとガラッと変わりますよね。もう集中力が急にマックスになるというか。

 

神戸:極限のところに挑んでいる時の映像とか、山にへばりついている小さな小さな山野井さんを下から撮っていたりとか。自然のあまりの巨大さとの落差。そして現場の過酷さみたいなものが、リアルに描かれていることに本当にびっくりしました。撮るのは大変だったでしょう?

 

武石:今はドローンがあって、もちろんそれを駆使するわけですけども、今流行の「クライマーの頭にGoProをつけて登る」みたいなことは、彼も「好きじゃない」と言うので、やっていないんです。わざと迫力ある映像だけで見せるというよりも、想像をかきたてる部分も持ってほしいなと思って作りました。

「好きなことを突き詰めて、それに一生を賭けていく」姿を描く

神戸:映画館で流すというチャレンジ。これは、本当に意味があるなと思います。映画にかけたメッセージとはどんなものだったんでしょうか?

 

武石:自分の好きなことを突き詰めて、それに一生を賭けていくのは、なかなかみんなできないと思うんです。でも、それを突き詰めてやっている彼の生きる姿を見て、やはり生きる勇気とかやる気とかそういうのを持ってくれたらうれしいです。

 

神戸:TBSテレビのドキュメンタリーブランド「TBS DOCS」の一環として制作された映画『人生クライマー 山野井泰史と垂直の世界 完全版』。いい作品を作っていただいてありがとうございました。

『人生クライマー 山野井泰史と垂直の世界 完全版』

https://jinsei-climber.jp/

KBCシネマ(福岡市)で11月25日(金)~

神戸金史(かんべかねぶみ) 1967年生まれ。毎日新聞に入社直後、雲仙噴火災害に遭遇。福岡、東京の社会部で勤務した後、2005年にRKB毎日放送に転職。東京報道部時代に「やまゆり園」障害者殺傷事件を取材して、ラジオ『SCRATCH 差別と平成』(放送文化基金賞最優秀賞)やテレビ『イントレランスの時代』(JNNネットワーク大賞)などのドキュメンタリーを制作した。

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