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世界3大ギタリストの一人ジェフ・ベックの功績を松尾潔が解説

世界3大ギタリストの一人に挙げられるジェフ・ベックが、今月10日に亡くなった。“ギタリスト”を“ボーカル”に並ぶ存在に押し上げたレジェンドの功績を、音楽プロデューサー・松尾潔氏がRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』で語った。    

ジェフ・ベック逝く

イギリスを代表するというか、世界のロックシーンの頂点に位置するギタリスト、ジェフ・ベックが今月10日、78歳で亡くなりました。家族が本人のTwitterアカウントで発表するという現代的なアナウンスだったんですが、それによると、死因は細菌性の髄膜炎だということです。

 

日本でジェフ・ベックといえば、エリック・クラプトン、ジミー・ペイジと並んで、3大ギタリストといわれています。僕が子供の頃からすでにこの3人は別格でした。だからずっとこの3人がいるのが当然と思っていました。その一人が亡くなったと聞いて、何だか一つの時代の節目にいるんだなということを痛感しています。

“ギタリスト”を“ボーカル”以上のヒーローに

ジェフ・ベック、エリック・クラプトン、そしてジミー・ペイジという3大ギタリストは日本でも人気が高かったのですが、いわゆるブリティッシュロックのコアの部分を作りました。特にヤードバーズという60年代に参加していたバンドではエリック・クラプトンが脱退した後のメンバーがジェフ・ベック。そしてジミー・ペイジとはもう高校時代からの付き合いです。

 

僕らは今、ロックのことを語るときに、ボーカリストと同じか、それ以上にギタリストをヒーロー扱いすることが多いんですが、そのあたりの刷り込みを作ってくれたのもこのジェフ・ベックたちの功績が大きいと思います。

スティービー・ワンダーと相思相愛

ジェフ・ベックは、ソロ名義のときもあれば、ヤードバーズというバンド、それ以前のトライデンツのときの音源も今聞くことができます。ブラックミュージックとの接点が大きかったということでも歴史に残る人物で、なんといってもスティービー・ワンダーと親しかったことでも有名です。

 

「People Get Ready」これはロッド・スチュワートをフィーチャーしていますが、元々は

カーティス・メイフィールドのカバー。R&Bやソウルのカバーを数限りなくやっているんですが、スティービー・ワンダーとは相思相愛の関係にあって、有名な「Superstition(迷信)」は元々ジェフ・ベックのために書き下ろしたものでした。

 

ところが、それをジェフ・ベックが当時加わっていたベック・ボガート&アピスというバンドでリリースしてもらおうとジェフ・ベックに書いてプレゼントしたのに、スティービー・ワンダーが気まぐれだったというか、その曲が気に入って、先にスティービー・ワンダー自身のバージョンを出しちゃったんです。

 

だからジェフ・ベックの方がカバーみたいに思われちゃったっていう、ちょっと気の毒な話もあったんですが、どちらのバージョンも今ではクラシックスとして聞かれています。ちなみにスティービー・ワンダーは、“泣きのギター”の代表曲として語られる「Cause We've Ended As Lovers(哀しみの恋人たち)」という曲もプレゼントしています。

ロックファンの裾野を広げる

ジェフ・ベックはブルージーな時期もあれば、80年代以降はちょっとテクノ的なとこに接近して、ある種YMOに近いようなサウンドの時期もありました。なにしろジェフ・ベックの終生のライバルであり良き仲間であったエリック・クラプトンはYMOの「BEHIND THE MASK」をカバーしていますから。

 

ジェフ・ベックとYMOの高橋幸宏さんがほぼ同じタイミングで亡くなって、80年代の世界の音楽の潮流を、改めて今思い出している方は、僕に限らずたくさんいらっしゃるんじゃないでしょうか。

 

ジェフ・ベックの数ある作品の中でも、僕が最もよく聞いたアルバムは1975年の「Blow by Blow」と1976年の「Wired」の2枚です。その「Wired」に収録されている「Come Dancing」はジャンルとしてはロックというよりも、ジャズとの境目のような、当時クロスオーバー、もしくはフュージョンと言われていたようなジャンルでした。ロックファン以外の人たちにも聞きやすいということで、ファンの裾野を広げた時代の作品です。

 

ここで曲を書いて、ドラムを叩いていたのが、ナラダ・マイケル・ウォルデンという、大変才能あふれるミュージシャン。彼はこの「Wired」に参加して、ほぼ10年後にはホイットニー・ヒューストンのデビューアルバムに参加しています。ホイットニーの1枚目と2枚目で、作品の制作の中心を担うことになって、今公開されている映画『ホイットニー・ヒューストン I WANNA DANCE WITH SOMEBODY』のタイトルなっている「I WANNA DANCE WITH SOMEBODY」は、ナラダ・マイケル・ウォルデのプロデュースです。

 

ですから、ここでナラダ・マイケル・ウォルデンを通して、ジェフ・ベックとホイットニーも繋がるわけです。改めて70年代、80年代のポップミュージックの人気者たちが、もう今皆さん鬼籍に入っているということですね。

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