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日中外相が初の電話会談「今こそ平和友好条約の精神を」

日本と中国の外相による電話会談が2月2日に行われた。2023年は日中平和友好条約締結45周年という節目の年だが、日本国内の対中世論は極めて厳しい。中国ウォッチャーの飯田和郎・元RKB解説委員長は、出演したRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』で「平和・友好を謳う意味を改めてかみしめ、日本と中国がお互いを尊重し、協力しあう関係構築を」と訴えた。  

戦狼外交を象徴するスポークスマンだった秦剛外相

「今年は〇周年」「あれからちょうど〇年」―――。中国の人は(も)「節目」を大切にする。2022年は、国交正常化50周年だった。さらに今年は「日中平和友好条約締結45周年」にあたる。つまり、国交正常化と平和友好条約を合わせれば、日中の間では5年間に2回の頻度で、節目の年を迎える。頻繁過ぎるように感じるかもしれない。しかし、その節目を理由に、関係を前に進めないといけない。それだけ難しい局面が続いている現実の裏返しでもある。

そういう中で、林外相と、2022年12月、中国外交の顔に抜てきされた秦剛外相が電話で会談した。秦外相はといえば、外務省のスポークスマンを務めていた当時、挑発的な発言を繰り返し、中国の戦狼外交を象徴する存在だった。

電話会談は50分間行われた。新華社通信の報道によると、双方とも「日中平和友好条約45周年」を強調している。秦剛氏はこう言っている。

今年は日中平和友好条約調印45周年であり、中国はこの機会に、日本との間で、条約の精神を改めて確かめたい。

 

お互いが協力し合うパートナーであり、互いに脅威とならない。そういう重要な政治的コンセンサスを堅持したい。各分野での協力を深め、関係の改善と発展を推進したい。
これに対し林外相は、新華社通信によると「日中両国の発展と繁栄は切り離すことができない。両国関係は協力し合える空間と巨大な可能性を秘めている」と述べた。また日本側は「日中平和友好条約調印45周年を機に、条約の精神を再度かみしめる。あらゆるレベルでの対話、人的交流を強化し、建設的、かつ安定した日中関係を構築する」と語った。どちらも「45周年」の節目を念頭に置いているようにみえる。

 

ところが、日本の外務省のウェブサイトにも、この外相会談の概要が掲載されているが、日本外務省の発表も、林外相の記者会見も「平和友好条約45周年」の部分には触れていない。会談では双方から言及があったのだろうが、中国側の方がこの節目を積極的に活用したい、という思いが強いようだ。

条約締結時「覇権反対」を強く求めていたのは中国だった

そもそも、この日中平和友好条約、日本と中国が国交を正常化した1972年に発表された「日中共同声明」。に続く第二の文書として、6年後の1978年に署名された。両国の関係をさらに発展させることを目的に結ばれた。その条文の中で、私はこの部分に注目したい。条約の要旨として紹介する。

・日中両国は友好関係を発展させ、また国連憲章の原則に従い、紛争の平和的解決を図り、武力の行使や威嚇に訴えない。

 

・両国は覇権を求めず、ほかの国による覇権確立の試みに反対する。
平和友好条約をつくる過程で、中国側が強く求めたのが、この「覇権反対」の部分。中国は当時、ソ連と対立関係にあった。そのソ連を念頭に、「覇権反対」を条文に入れることを強く主張した。一方の日本側は、ソ連を過度に刺激することへの懸念があった。

 

締結から45年。「今の中国の対外戦略こそ、覇権主義的」という印象を多くの人たちが受けている。2日の電話会談で林外相は「日中関係は多くの課題・懸案に直面し、日本国内の対中世論は極めて厳しい」と指摘した。

 

具体的には

①尖閣諸島情勢など東シナ海への中国の海洋進出

②日本の周辺海域での中国の軍事活動の活発化

③南シナ海の問題や、香港、新疆ウイグル自治区等での人権問題に対する深刻な懸念

④台湾海峡の平和と安定の重要性
などについて述べている。

説明不足の防衛費増額では日本への不信感が増す

「日本の周辺環境は厳しさを増している」として、岸田首相は、防衛費を2027年度には今の2倍、GDP(国内総生産)の2%に増額すると決めた。しかし、日本国民であるわれわれは、政府からきちんとした説明を聞けないままだ。中国や北朝鮮の脅威を叫ぶだけでは、多くの人は納得できない。日本人でも理解できないのだから、ましてや周辺国は日本への不信感が増す。お互い疑念ばかりが先行したら、行きつくところは、軍備拡張、防衛・国防予算の増大を競うだけだ。

 

そんな中でも、日中間で協力できる分野もあるはずだ。記憶に新しいところだが、長崎県の東シナ海で1月下旬、香港船籍の貨物船が沈没した。船に乗っていた中国人、ミャンマー人のうち13人は日本の海上保安庁や自衛隊、それに韓国の海洋警察庁に救助された。電話会談の冒頭、秦剛外相は林外相に、捜索・救助活動への謝意を表明している。

 

「緊急事態だから当たり前だ」と片付けるのではなく、日本と中国、さらに韓国がお互いを尊重し、協力し合えることはある。日中の外相は、ウクライナ情勢についても意見交換した。北朝鮮への対応について連携していくことを確認した。やるべきことは山ほどある。

 

電話会談で秦剛外相は、林外相の中国訪問を招請した。調印から45周年を迎える日中平和友好条約の「平和」「友好」を謳う意味を改めてかみしめ、次回は、ぜひ対面で会談してほしい。

◎飯田和郎(いいだ・かずお)
1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。
 

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