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大型連休関係なし!「反腐敗」を進める習近平政権

中国で汚職摘発が急加速しているという。東アジア情勢に詳しい、飯田和郎・元RKB解説委員長が、出演したRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』でその背景について解説した。

大型連休明けに一斉摘発

本題に入る前に、日本のゴールデンウイーク同様、中国も大型連休が終わったばかりだ。5月1日のメーデーを中心に、その前後5日間は連休だった。「ゼロコロナ政策」が終わって初のメーデー休みで、各地に行楽客があふれ、全国で旅行客は2億4000万人を数えた。

その大型連休が明けた5月4日、高いランクの公務員の汚職摘発のメスが入った。

中国には、上級公務員、共産党幹部の汚職摘発を管轄する「中央規律検査委員会」がある。その地方組織の規律検査委員会が時を合わせるかのように、各地で摘発に動いた。

その中央規律委員会の公式ホームページに「メーデー休暇が終わった仕事始め初日。多くの幹部が審査を受け、(共産)党籍のはく奪、公職を解かれた」との書き出しで始まる記事が掲載された。見出しは「落馬(=馬から落ちる)」、つまり失脚、転落を意味する。

連休明けの5月4日に発表された処分は、どれを紹介していいかわからないほど数多くあった。ひとつ挙げると、北九州市と友好都市提携を結ぶ、人口1000万人を超える遼寧省大連市では、副市長が「重大な規律違反」によって、取り調べを受けていると公表された。

このほか、新型コロナウイルスに感染した市民が初めて発症したとされる都市として知られる湖北省武漢市でも、副市長がやはり「重大な規律違反」があったとして、取り調べを受けている。こちらは容疑の一部が明らかになっている。ほかの人の幹部昇格にあたり、賄賂を受け取ったり、自分の職権を悪用して親戚に便宜を図ったりしたという。

このほか「公務に名を借りた旅行が実はレジャーだった」「自分で使った費用を業者に付け回しした」などなど。大きな地方都市の幹部や銀行幹部などの名前が並ぶ。

習政権3期目にあわせ規律検査委員会が動く

習近平主席のよく知られた言葉で「トラも、ハエも叩く」というのがある。つまり、汚職を働いたからには、大物(=トラ)も小物(=ハエ)も徹底的に糾弾する、という号令だ。そのキャンペーンの司令塔が、この規律検査委員会だ。

中国の国会にあたる全人代(全国人民代表大会)で習近平氏は2023年3月、前例を破って3期目に入った。その全人代で習氏はこう演説している。

党(=共産党)の規律に違反する問題に対しては、断固調査し処分する。反腐敗は最も徹底的な自己革命である。反腐敗闘争は一刻たりとも、止めてはならない。

全人代に先立ち、昨年10月には、5年に一度の共産党大会が開かれている。習近平氏は、その活動報告の中で、やはり腐敗撲滅を強調していた。

習近平氏がよく使う言葉に「共同富裕」というものもある。「貧富の格差をなくし、一部の者ではなく、すべての国民が豊かになろう」というスローガンだ。そのためには、庶民が抱く不公平感をなくす――。つまり、特権を悪用して、私腹を肥やす連中を懲らしめる――。時代劇ドラマの「水戸黄門」の水戸光圀に例えれば、わかりやすい。

その習政権3期目が始まったことを受けて、中央規律検査委員会が今年4月、汚職撲滅の大キャンペーンを始めた。大型連休明けの今回の摘発もその一環だろう。

中央規律検査委員会のトップがいう「二つの確立」とは

汚職撲滅をどこまで徹底できるか――。習近平氏への忠誠が、測れるもののようにも思える。中央規律検査委員会のトップ、書記のポストにある李希氏は、「二つの確立」というスローガンを多く使っている。

「二つの確立」とは、習近平氏への忠誠表明を意味する。つまり①習氏の核心的地位を確立すること②習氏の政治思想の指導的地位を確立する――。この二つの重要性を強調している。いわば、共産党全体に対し、習氏への服従を迫るスローガンだ。

汚職摘発を進めることで、庶民の不公平感を減らす。一方で、真剣に取り組むかどうかで、習近平氏への忠誠のバロメーターになる――というわけだ。

この中央規律検査委員会の李希氏は、昨年秋の共産党大会で、最高指導部の共産党中央常務委員会のメンバーに抜てきされた。地方で勤務した時代から、習近平氏との縁が深い。

中国の内陸部、陝西省延安市。ここは、「革命の聖地」と呼ばれ、中国共産党が内戦時代に拠点を構えた土地だ。ここの農村部で、習氏は10代後半から20代にかけて7年間を過ごした。李希氏は、延安市のトップに就いた際、習氏が暮らした村を整備し、愛党(=共産党を愛する)教育の拠点にした。中央での勤務の経験はなかったが、こうした実績を通じ、習氏のグループに入った。

昨年秋に中央入りする直前は、南部の広東省のトップだった。広東省の中心都市・広州のメディア関係者に評判を尋ねると「可もなし、不可もなし」との答えが返ってきた。いずれにせよ、3期目に入った習近平政権の看板である「反腐敗・汚職撲滅」は、この李希氏が陣頭に立ち、その成否は彼への評価になる。

ちなみに、最高人民検察院(=日本の最高検)のトップもこの3月、習近平氏の地方勤務時代の部下が抜てきされた。

中国サッカー界でも汚職摘発が続く

大型連休明けに、捜査が明らかになったのは、人口規模が大きいとはいえ、地方都市の副市長クラスで「大物」とはいえない。ターゲットは「大きなカネが動く」部門だ。

いま、中国のサッカー界が大荒れだ。中国サッカー協会のトップほか現職幹部、元幹部も含め、汚職で次々と摘発されている。中国でサッカーは人気スポーツで、プロのサッカー・リーグにはビッグマネーが動く。かねてから不透明さが指摘されてきた。

格差が広がり、庶民は不公平感を募らせる。一方で、「反腐敗」をスローガンにして、習近平氏は自らの統制をさらに強めたい。中国の汚職撲滅の動きは今後、取り上げる機会が増えるかもしれない。

◎飯田和郎(いいだ・かずお)
1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。

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