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日中平和友好条約45周年「今こそ光る意義」ウォッチャーが解説

日本と中国の間で結ばれた「日中平和友好条約」が発効してから、45周年を迎えた。「超低空飛行」が続く日中関係。あまり、脚光を浴びることのない日中平和友好条約だが「今だからこそ、輝きと重みを増すことができる」と語るのは、東アジア情勢に詳しい、飯田和郎・元RKB解説委員長だ。11月2日に出演したRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』で解説した。

日本との交流経験の深い前総理が急死

日本と中国の間で結ばれた「日中平和友好条約」が発効してから、10月23日で45周年を迎えた。そんな中、若い時から、日本との交流経験の深い前の総理、李克強氏が急死した。李氏はすでに引退していたとはいえ、日本を知る人が減っていくのは残念だ。
 

「平和」「友好」条約――。今日の日中関係を鑑みると、「友好」とは言いにくい。それに台湾をめぐる情勢も含め、「平和」にはほど遠い気がする。
 

日本と中国の間には、4つの文書がある。①日中共同声明(1972年=昨年50周年)②その6年後に結んだのが、きょうのテーマの日中平和友好条約(=1978年)③「平和と発展のための友好協力パートナーシップの構築に関する」日中共同宣言(=1998年)④「戦略的互恵関係」の包括的推進に関する日中共同声明(=2008年)だ。
 

毎日新聞在籍時、中国担当記者として③④の文書ができる過程を取材した私も、日中両国で未来を語れる環境ができないかと願う一人だ。
 

四つの文書。国交正常化への扉を開いた日中共同声明がクローズアップされてきた。だが、これは条約ではない。この四つの文書の中で、国際的な法律としての効果があるのは、国会で批准している②日中平和友好条約だけだ。
 

「国際的な法律の効果がある」――。つまり「国同士の正式な約束ごと」である、この平和友好条約は、とりわけ重要だ。

日本と中国は「永久に引っ越しできない」関係

10月に発刊されたばかりの本がある。タイトルは『永遠の隣国』。平和友好条約締結45周年を記念した一冊だ。タイトルのとおり、「永久に引っ越しできない」隣の国同士の日中両国の関係について記述している。日中関係に携わってきた人たち、政治家や外交官、学者だけではなく、経済や文化など民間の人も含めた日本人、中国人約70人が寄稿している。600頁近い分厚い本だ。
 

編集委員会のメンバーが私に送ってきてくれた。この本の中で、元中国大使の宮本雄二さん(=福岡県出身)が寄せた文章が興味深い。
 

宮本さんは外務省の中国担当(いわゆるチャイナスクール)だった。宮本さんによると、平和友好条約に向けた作業は、中国側の申し入れによって始まった。1974年11月に予備交渉が始まり、宮本さんは当初、通訳として交渉に参加したという。

「日本側は、特にこの条約を締結する必要を感じていなかったが、中国側は熱心であった。周恩来総理が、この条約の締結を、心から望んでいたという話はよく聞く。それゆえに1970年代の中国の基本国策となったのであろう」

中国側は締結の必要性があった。背景には中国とソ連の緊張関係が存在した。宮本さんの回想を続ける。

「日中の交渉は、当時の中ソ対立を反映して、すぐにソ連を念頭に置いた『反 覇権条項』に焦点が当たってしまった」

中国は、日中平和友好条約の中に、明らかにソ連を指す「覇権に反対する」の文言(=反覇権の言葉)を入れたかった。一方の日本はソ連と間で、北方領土の返還問題を抱える。日本は、この「反覇権」条項を、日中平和友好条約に入れることには難色を示したが、折り合いがついたのが、この平和友好条約の第2条だ。

「両締約国は、そのいずれも、アジア・太平洋地域においても、または、ほかのいずれの地域においても、覇権を求めるべきではなく、また、このような覇権を確立しようとする他のいかなる国、または、国の集団による試みにも反対することを表明する」

「ほかのいずれの地域においても、覇権を求めるべきではない」――。この表現があることによって、日本としては「ソ連だけを糾弾するではない」「『覇権に反対する』という精神は普遍的なものだ」と言える。北方領土問題を前進させるため、ソ連を硬化させないように…。

「覇権に反対」だったはずの中国だが…

しかし、この条約から45年が経過し、中国こそ「覇権を追い求めている」ように思える。「覇権」の意味を辞書で調べると「軍事力や経済の実権を掌握することによって得られる、近隣の国にまで及ぶ支配力」。今の中国がまさにそのような行動を取っているように思える。
 

フィリピン軍の輸送船が南シナ海で、中国の船に体当たりされた。それなのに中国側は「責任はすべてフィリピンにある」と反論している。この行為が示すように、南シナ海、東シナ海における中国の主張は、覇権主義的だ。
 

スパイ容疑で拘束されていた製薬会社の現地法人の日本人幹部が、中国当局によって正式に逮捕された。福島第一原発からの処理水の排出に、中国の反発がやまない。そんな事案が重なって起きていることも影響しているのだろう。
 

非営利団体「言論NPO」などが行った世論調査によると、中国の印象について「良くない」と回答した日本人は実に92.2%。調査を開始して以来2番目に高かった。
 

中国は当然、自分たちを「覇権的だ」とは言わない。元中国大使の宮本雄二さんの文章に戻ろう。宮本さんも、先ほど紹介した日中間の四つの基本文書のうち、「国際法的効果を生じるのは、日中平和友好条約のみ」と説明している。そのうえで、こう訴えている。

「法的効果は国会が批准した日中平和友好条約が勝る。こうした位置づけの平和友好条約をこれからの日中関係の法的な基礎とするべきであるというのが、私の主張である」

平和友好条約は、中国の方が積極的だった、そして、中国は『覇権に反対する』という文言を盛り込むことを求めた。だから、時代が変わって中国が力を付けて覇権主義的と思われる行動を取る今こそ、「『覇権』の定義を定め、日中それぞれの行為が「覇権を唱えず、覇権に反対する」という条約の規定に合致しているかどうか、を議論すべき――。これが宮本雄二さんの主張だ。

「反 覇権主義」を謳った条約の精神を中国に訴えよ

あまり、脚光を浴びることのない日中平和友好条約だが、今だからこそ、輝きと重みを増すことができる。
 

先ごろ、北京で開かれた平和友好条約45周年の中国側式典には、福田康夫・元総理大臣が出席した。平和友好条約を締結した時の日本の総理が、父親の福田赳夫氏だった。福田康夫氏は式典での挨拶でこう述べた。

「平和友好条約の質を、さらに高めていくという努力を、しなければいけない。それがわれわれの責務だ」

「質をさらに高めていくという努力」――。まさに、「反 覇権主義」を謳ったこの条約の精神を、中国に訴え、共有すべきではないだろうか。

 

◎飯田和郎(いいだ・かずお)
1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。

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