PageTopButton

松尾潔が語るカマラ・ハリス大統領候補にみる「音楽と政治の優しい関係」

radikoで聴く

世界的人気歌手のテイラー・スウィフトが、アメリカ大統領選挙で民主党のカマラ・ハリス候補を支持すると表明した。若者を中心に大きな影響力を持つ彼女が支持を表明した理由、カマラ・ハリス候補とポップミュージックの関係について音楽プロデューサー・松尾潔さんは9月23日に出演したRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』で「政治に対する壁を下げてくれる」とコメントした。

保守的文化に葛藤したテイラー・スウィフト

日本の自民党総裁選や立憲民主党代表選も近づいていますが、アメリカの大統領選挙もかなりの盛り上がりを見せています。民主党で現在、副大統領のカマラ・ハリス候補への支持を表明したテイラー・スウィフトの話題から、政治と音楽との関係についてお話しします。

テイラー・スウィフトは随分前から今回の大統領選挙に大きな力を持っているとされています。既に前回の選挙時もテイラー・スウィフトは発言力が大きく、彼女の動向が若い人たちの選挙人登録にすごく大きな影響を及ぼしていると言われていました。

テイラー・スウィフトの曲「Only The Young」は2018年のアメリカ中間選挙の際、地元・ナッシュビルがあるテネシー州の上院議員選挙で彼女が支持した民主党の候補が落選したため、ひどく落ち込んで「もうこれ以上黙っていられない」と書き下ろした曲です。

テイラー・スウィフトはカントリーシンガーという、アメリカの特に白人の保守的文化のBGMといえるような音楽の畑から出てきました。こういうところでは家父長制が強いというか、「男が活躍して女はそれを支える」みたいな旧来の価値観があり、「女の人はあまり社会や政治に物を言っちゃいけない」というところが根強くあります。

彼女もずっと自分の出自の中で「素直ないい子ちゃん」でいなきゃいけないのか、それともどんどん自分の中で目覚めてくることとどう向き合うかみたいな葛藤があったようです。だからこの「Only The Young」で「若い人たちみんな言いたいことを言おう、信念を持って言いたいこと言おうよ」と歌ったんです。2020年ごろ日本でも話題になりました。

熱を感じさせるテイラー・スウィフトの言葉

そういうことを踏まえての今回の大統領選挙です。テイラー・スウィフトがインスタグラムで公式声明を出しました。インスタグラムで、というのにも理由があって、彼女は反トランプであり、トランプ氏や共和党を支持しているイーロン・マスク氏のことをすごく意識しているので、イーロン氏の司るXには投稿しないんですね。

そのインスタグラムの投稿の一部をご紹介しましょう。

最近、AIで作られた「私」がドナルド・トランプ氏を支持するという偽情報が、彼のサイトに投稿されたと知りました。AIに対する不安、そして誤った情報が広まることの危うさを思い知らされました。このことで、有権者として私がこの選挙にどう向き合っているか、明らかにする必要があるという考えに至りました。偽情報には、真実で対抗するのが最もシンプルな方法なのです。

私は、2024年の大統領選挙でカマラ・ハリス氏とティム・ウォルズ氏に投票します。私は権利と大義のために戦う人が必要だと信じていますが、カマラ氏は戦っているからです。ハリス氏は着実な手腕と才能を備えたリーダーだと感じています。混沌ではなく冷静さをもって導くことができれば、私達はこの国でさらに多くのことを達成できるでしょう。

一言で言うと、「立派なもんだな」と思います。彼女が今アメリカ、世界におけるショービズでどれだけの位置にあるかというのを知っていれば、この言葉がどれだけの重みを持ってアメリカの隅々まで届いていくかということが容易に想像できると思います。

言葉に対して責任を持つ、そしてその言葉の効力を知り尽くした中で、それをどう選ぶか、隅々まで計算の行き届いた、でも熱を感じさせる言葉に胸を打たれますね。もちろん民主党を支持する、共和党を支持する、あるいはハリス氏を支持する、トランプ氏を支持するというのは自由だと思いますし、日本で暮らす我々にとってもいろんな見方があって当然で、それを尊重します。

旗の色を示しておかないと自分の趣旨とは違う使われ方をしてしまう

公式声明でも触れていますが、スウィフトはトランプ氏のSNS上で自分がトランプ氏を支持しているように見える偽の画像を投稿されました。大統領候補であるトランプ氏が「疑わしい画像」を投稿すること自体、日本の政治家の振る舞いなどと比べるとビックリしてしまいますね。

それに対して、スウィフトは毅然とした態度を示しました。日本では星野源さんの「うちで踊ろう」というコロナ禍の時に発表した曲がいろんな形で、いろんな人たちがネット上でコラボするというミーム化したことがありましたよね。

その時、当時の安倍晋三首相が曲とマッシュアップしたような動画を出して「それは元々の星野さんの意向と違うんじゃないか。これに星野さんはどう対処するんだ」と話題になったことがありました。確か星野さんはインスタグラムのストーリーズで控えめにではありますけれども「自分の意図ではない」ということを伝えました。

しかしそれ以降、星野さんは目立った社会的・政治的発言が無くなってしまったようにも見受けられます。普段から旗の色をきちんと示しておかないと、「政治家によって自分の趣旨とは違う使われ方をされてしまうことがある」というのを見せつけられたんですが、今回のテイラー・スウィフトの件はまさにそのデジャブ感があります。

相手が大統領候補であろうと元大統領であろうと「偽」に対しては「真実」で対抗する。星野源さんも「ニセ明」というキャラクターをもっていますが、この「偽」という言葉はショービズにおいても政治においても大きな概念なんだなと改めて思いますね。

ポップミュージックと政治の優しい関係

カマラ・ハリス氏はテイラー・スウィフトという強力な応援を得たわけですが、それに先駆けてハリス氏は今、自分の公式テーマソングとしてビヨンセさんの「Freedom」という曲を使っています。

ビヨンセはジョー・バイデンのもっと前からの民主党支持者ですが、これは一般的にR&Bアーティスト、HIPHOPアーティスト、アフリカ系アメリカ人たちは民主党を支持する人が伝統的に多いですから、そういう前段あってのこの「Freedom」の使用だったんですけどね。

ハリス氏は前回の副大統領候補のときは、メアリー・J・ブライジの「Work That」を演説時の入場テーマ曲に使っていて、あえて言いますけど、彼女は「普通にR&B好きなんだな」と思っています。Spotifyでは、カマラ・ハリス氏お気に入りの曲を集めたプレイリストも作られています。

オバマ元大統領も夏の時期になると必ず「今年のプレイリスト」と発表して、「趣味いいな」なんてことがよく音楽マニアの間で語られていました。政治家たちが普段はこういうポップミュージック聞いて、こういう曲に共感しているというのを、プレイリストで知るのはなかなか今風の話で、政治に対する壁、バリアみたいなものを破ってくれる話です。

ポップミュージックと政治、ともすれば別のものと考えられがちなんですが、理想的な優しい関係というのはあるんじゃないかな、というのを大統領選を見ながら感じています。

この記事はいかがでしたか?
リアクションで支援しよう