『ウルトラマン』シリーズなどの特撮作品で、今なお「カルト的人気」を誇る映像制作者、実相寺昭雄(1937~2006年)の作品を映画館で観られる、貴重な機会が訪れています。RKB毎日放送の神戸金史解説委員長が、7月1日放送のRKBラジオ『田畑竜介Grooooow Up』で紹介しました。
鬼才・実相寺昭雄の作品を鑑賞
TBSレトロスペクティブ映画祭が開催中です。東京・大阪などで大好評を博し、現在は福岡市と名古屋市で開催されています。レトロスペクティブとは「過去にさかのぼる」「振り返る」という意味。テレビ草創期からの膨大な作品の中から、今の時代に振り返るにふさわしい作品をデジタル化して上映する映画祭で、2024年は「寺山修司特集」でしたが、2回目となる2025年は「実相寺昭雄特集」です。
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実相寺昭雄 1937年生まれ。1959年、TBSに入社。『ウルトラマン』シリーズなどの特撮作品で異彩を発揮。退職後には映画『無常』『帝都物語』などを監督。CM、オペラまで手掛け、その美学と感性で唯一無二の存在感を放った奇才。2006年没。
今でも根強い人気があり、TBS時代に制作したドラマ、音楽番組、ドキュメンタリーの計8作品が上映されています。映画祭を企画・プロデュースした、TBSテレビの佐井大紀さんに実相寺昭雄について聞きました。

佐井:まだ映画の方が偉いとされ、「電気紙芝居」と言われていた時期のテレビに入社して、そこでさまざまな表現方法を開拓しながら、後に『ウルトラマン』などの特撮番組も撮り、そしてそこから規模を広げていって劇映画も撮り、オペラの演出もしてCMを演出して、すごく多様なクリエイターとして昭和・平成と時代を駆け抜けた、まさに鬼才という言葉の似合う、それでいてすごく普遍的なクリエイターだったなと僕は解釈しています。
佐井大紀 1994年神奈川県出身。2017年にTBSテレビ入社、ドラマ制作部所属。『Eye Love You』『Get Ready!』など連続ドラマのプロデューサーを務める傍らドキュメンタリー映画を監督し、『日の丸~寺山修司40年目の挑発~』『カリスマ~国葬・拳銃・宗教~』『方舟にのって~イエスの方舟45年目の真実~』を制作。TBSレトロスペクティブ映画祭を企画・プロデュース。
伝説の「実相寺アングル」
「実相寺昭雄特集」は福岡市のKBCシネマで開催中ですが、6月28日(土)の上映後、登壇あいさつがありました。日本経済大学で特撮と漫画を研究している坂口将史准教授(34歳)と、佐井大紀氏(31歳)が登壇。司会は、特撮大好きのRKB冨土原圭希アナウンサー(27歳)が務めました。みんな若いです。
冨土原:特撮に来て『ウルトラマン』『帰ってきたウルトラマン』『ウルトラセブン』を演出していくわけなのですが、かなり前衛的で、さまざまな評判があったみたいですね。
坂口:王道としての怪獣映画・怪獣番組というものとは違う絵面を作る方で、異色の監督でもあるし、スタッフの方たちにとっても「あの実相寺さんが、すごい絵面を撮ってる」と。ラッシュのフィルムを見に行った人もたくさんいたそうですし、スタッフの方々にとってもクリエイター的な意味での評判はすごく良かったみたいですね。
坂口:今日拝見した作品も、「実相寺アングル」と俗に言われるような、極端なアップだったり、ドラム缶の穴の形にカメラのフレームを合わせ、四角形のテレビのフレームとは違う形にするというところとかを、もう既にここでやっている。それらが、特撮の場面で『ウルトラマン』『ウルトラセブン』で出てきている。「原点を見た」とすごく感じました。
冨土原:実相寺昭雄さん特有の画角だったり、撮り方を、「実相寺アングル」と言うわけなのですが、まさにそれがふんだんに使われている。
上映作品に鮮烈な驚き
「実相寺アングル」。映画館で観ましたが、かなり特徴的です。
この日最初に上映されたのは歌番組『坂本九ショー』(1963年)でした。歌う坂本九氏の足元しか映っていなかったり、ロングでずっと映した映像をズームインして鼻と口しか映らなかったり、かなり驚かされます。「どうしてこのカットなんだろう?」と思うのですが、とにかく面白いのです。坂本九氏って私たちよりかなり年上の人なので、「こんなに魅力的な人だったんだ」と初めて分かったという感じでした。

『坂本九ショー』(1963年6月8日放送) ドラマ風の演出で魅せる、TBSに残る最古の坂本九出演の音楽番組。手持ち長回しを駆使した九氏のヒットメドレーや、司会・古今亭志ん朝氏の軽妙なトーク、原知佐子氏のナイーブな朗読などで飽きさせない構成。音楽番組なのに精巧なドラマ用のセットを組んだ。 構成:永六輔 出演:坂本九、古今亭志ん朝、永六輔、いずみたく
次いで上映されたのが、ドキュメンタリー『ウルトラQのおやじ』(1966年)で、特撮の神様・円谷英二氏に密着したドキュメンタリー。怪獣たちが応接間で円谷氏に「見ている人を怖がらせればいいのか、親しまれればいいのか」と質問するのです。斬新ですね。
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『ウルトラQのおやじ』(1966年6月2日放送) 『サンダ対ガイラ』の撮影風景や、怪獣による円谷氏へのインタビューなど、構成・編集・音楽どれを取っても実相寺節全開。 出演:円谷英二、円谷一、金城哲夫
舞台あいさつで語られたこと
特撮好きと言えば、RKBでラジオドラマ『空想労働シリーズサラリーマン』を作った冨土原アナウンサー。『サラリーマン』も会場に登場し、ちゃぶ台を持ってきました。登壇あいさつの間、ちゃぶ台の前にサラリーマンが座っているのはなぜだと思いますか? 『ウルトラセブン』でメトロン星人がちゃぶ台を挟んでウルトラ警備隊のモロボシ・ダンと向かい合って対話するシーンへのオマージュですね。

冨土原:『坂本九ショー』は、当時TBSで通常のテレビ歌謡ショーを撮っていたところの実相寺作品ですよね。
佐井:そうです。当時実相寺さんはADからディレクターに上がったぐらいで、単発シリーズドラマ『おかあさん』の監督をしながら、同時並行的に毎週夜7時にやっていた音楽番組『7時にあいまショー』の演出もしていました。この枠の中で、坂本九の特集回を実相寺昭雄が演出したのが『坂本九ショー』です。
冨土原:ご覧になった皆さんも、「ん? この映像は何だ?」と思った方が多いかもしれません。いわゆる歌謡ショーの文脈でいうと、よく分からない映像がずっと続くというか、前衛的ですよね。
佐井:はい。当時のテレビのカメラはVTRで撮っていました。フィルムカメラじゃないのですごく大きい。坂本九が歩くところを手持ちで追いかけていく映像が出てきました。「おそらく当時のテレビのカメラを解体していたんじゃないか」と。バズーカみたいな感じでもって、手持ちカメラで撮影した。スタジオとかに常設されている、みんなで使う機材です。それを勝手に1ディレクターの采配で解体してしまう。「それは干されるよな」というのが、正直な会社員としての実相寺昭雄に対する評価ですね。
佐井:すごくADとして優秀だったから、ディレクターになるのが速かったけれど、音楽番組の生中継をやっても演出させると変なものを撮る。ただ、非常に人当たりが良い。上司には好かれる。企画は通り、変なものを撮る。それを2~3年間繰り返して、仕事がなくなるんです。
佐井:結局、演出部から、新設の映画部へ。円谷英二氏の長男、一(はじめ)氏がTBS映画部で、映画と同じようなスキームでテレビ番組を作ろうとしていました。干されていてうだつの上がらなかった実相寺昭雄を自分の部下に引き入れようとしたのです。「円谷プロで今度、新しい『ウルトラQ』という番組をやるから」と。干されていた人が、ちょっと久しぶりに撮れた。それが『ウルトラQのおやじ』という番組になります。
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映画祭ではこのほか、母親を主題にした1話完結のスタジオドラマシリーズ『おかあさん』も6本が上映されています。ほんわかした「おかあさん」というイメージから連想するものとは、全然違いました。貧乏アパートに囲われた二号の娘と、それにすがる強欲な母。そこに隣人の学生やヒモも絡み、感情むき出しのコメディが展開するという回もあります。見ましたけど、これもすごかったです。
TBSレトロスペクティブ映画祭は、名古屋市のシネマスコーレで7月4日(金)まで。福岡市のKBCシネマも7月3日(木)までで、最終日には『ウルトラQのおやじ』と『坂本九ショー』が上映されます。大切な機会ですので、足を運んでいただけたら得るものがあるのではないでしょうか。
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この記事を書いたひと

神戸金史
報道局解説委員長
1967年、群馬県生まれ。毎日新聞に入社直後、雲仙噴火災害に遭遇。福岡、東京の社会部で勤務した後、2005年にRKBに転職。東京報道部時代に「やまゆり園」障害者殺傷事件を取材してラジオドキュメンタリー『SCRATCH 差別と平成』やテレビ『イントレランスの時代』を制作した。現在、報道局で解説委員長。