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「いい子症候群」が増えている!?若手アナウンサーが気になった本の著者に聞く

読書の秋だ。RKBラジオ朝の情報番組『田畑竜介 Grooooow Up』ではパーソナリティを務める武田伊央アナウンサーが最近読んで印象深かったという「先生、どうか皆の前でほめないでください いい子症候群の若者たち」の著者、金沢大学融合研究域融合科学系教授・東京大学未来ビジョン研究センター客員教授の金間大介(かなま・だいすけ)さんに話を聞いた。    

今の若者の一番嫌いな役割はリーダー

武田:タイトルにある、「先生、どうか皆の前でほめないでください」という言葉は実際に生徒から言われたのか?

 

金間:今、勤めている大学ではないが、ここ10年ぐらいの間に言われた言葉だ。そのシーンが執筆のきっかけになった。

 

武田:サブタイトルの「いい子症候群」はどんなものか?

 

金間:私の講義で授業中にとても良い質問をした学生がいたので、その場で、「今の質問すごく良かった。何々くん」と褒めたら、講義後にわざわざ教壇に来て、まさにそのタイトル通りの言葉を発したので題名にした。今の学生は周りから目立つのが怖い。100人のうちの1人に埋もれていたいとか、変なことを言って周囲に誤解されたくないといつも考えているようだ。次第に強くなっている傾向を「いい子症候群」という言葉を用いて表現した。

 

金間:今の若者の一番嫌いな役割はリーダー。自己肯定感は低く、競争が嫌い。特にやりたいことはないという世代。私は20代後半だが、半分ぐらい心境は理解できる。若者との価値観の“乖離”が生まれている印象を持っている。

 

金間:Z世代と呼ばれる若者たちのキチンとした統計資料はないが、私の研究者としての考えや主観も混ぜると、半分あるいは半分強ぐらいはそういった気質が強いと思う。つまり、本当に目立つのが怖かったり、変なこと言ってみたらどうしようと考える人が半分強はいると思っている。

みんな一緒というところに重きを置いている

武田:教室の中などで「いい子症候群」がいるケースはあるのか。

 

金間:もっともわかりやすいのは「質問がありますか?」と生徒に尋ねた時に、シーンとすることで分かる。ちょっとざわついた授業も「何か質問ありますか?」と問いかけた時だけはピタッと固まり、生徒は視線を下げる。今、この傾向がますます強くなっている。

 

武田:象徴的な風景だ。息をひそめて存在感を消し、目立たないようにしている。個人ではなく、学生というひとかたまりで考えて欲しいということか?

 

金間:全くその通り。今の若者は「目をつけられる」という言葉も昔とは意味が異なり、名前を覚えられること、さきほどの良い質問をして、名前を覚えられ、覚えられることを「目をつけられる」と表現する。良いことなのに、かつてネガティブな意味で使っていた言葉を当てはめる。授業後に、君は優秀だから少し意見聞かせてくれないか?と生徒を研究活動に誘うことがあるが、このことを学生は「拉致られる」と表現する。非常に優秀な学生で教員もそれを認めているレベルでも、学生たちは「拉致られる」と表現する。

 

武田:学生はみんな一緒というところに重きを置いているということか?

 

金間:全くその通り。横並び主義。目立つことなかれ。横並び。さらに指示待ちというのが今の学生気質。

 

武田:どうしてそんな風になってしまったのか。

 

金間:非常に複雑で、多岐にわたるので、簡単に説明することは難しい。大きな要因の一つとして、大人社会が実際にそうだからと言えると思う。

 

金間:例えば、ラジオ番組を聴いているリスナーの皆さんも、会社の会議などで上司を差し置いて、積極的に意見を交わす会議はまずないはず。

 

金間:会議とは名ばかりで、上司がひたすら一方的に喋ることが多いのではないか。その状況がまさに横並び主義で指示待ちと言われたりするが、家庭・学校・地域などのコミュニティを通し、ゆるやかに子どもたちに伝播し、10代のうちにそうすることが得なんだ、楽なんだと理解してしまった。

 

武田:もがいていることは感じられる?

 

金間:およそ5~6割は「いい子症候群」で、彼らは自らそれを選んでいる。

 

金間:人生の選択肢として自分の幸福とかを追求した結果、自己防衛でそういう選択をしている。私は必ず言うけれども、“社会現象”かもしれないが、“社会課題”とは思わないで欲しいと。単なる心理的特徴なので、ちゃんと自分の意見は言った方がいいんじゃないかな、でも何か言いにくいなって思っている。そういう若者は一定数いると最近わかってきた。

新入社員の好評価は秋冬まで続かない!

武田:最近の若手社員に対して「いい子症候群」を感じる社員もいると思うが、実際はどうなのか?

 

金間:大学生は同級生たちと一緒にいる時間がほとんどなので、たとえ「いい子症候群」でも、学生時代は大きな問題になることはない。就職し新入社員となってから、「いい子症候群」的な気質・性質が社内で目立ってくる。例年、春から夏にかけては“今年の新人はなかなか優秀じゃないか”という話題が人事部などを中心に飛び交うが、これが秋冬まで続いたケースは経験上一度もない。

 

金間:春から夏にかけての新人研修期間までは、大人受けがいい演技とかが活きる。さわやかに返事をするとか「期待しているよ」「頑張ります」とかいうテンプレートにあるような受け答えは簡単にできるわけだが、正式に職場に配属されると一人だけになり、「あいつは何を考えているかわからない」「意見を言う気がない」とか評価が変わることが多い。

 

武田;若者の仕事の感覚はどういうものなのか。

 

金間:仕事についてはガイドライン、マニュアルがあると考えている傾向が高く、仕事ができるようになるイコールそういったマニュアル的知識とかスキルを身につけていくことだと考えている。実際の仕事は決してそうではなく、日常業務の積み重ねによるノウハウや、自分で考えて動いて初めて身に付けることが圧倒的に多いが。

 

金間:それらとのギャップがあるために、就職活動では質問ありますかと尋ねると、必ず「御社にはどういった研修制度がありますか」という質問になる。会社側が学生から育成システムはあるのかと確かめられているということだ。

先輩はリスクを背負い何かに挑戦している姿を見せろ

武田:そういった若者とどうコミュニケーションをとったら良いのか?

 

金間:若者に対する接し方は3パターンある。ひとつはしっかりと話して諭して導いてあげようとする姿勢。二つ目は彼らが何を考えているのかを聞いて理解しようとする姿勢、三つ目はあんまり関わらない、構わないという感じ。この3パターン。

 

武田:これだけでいいのか?

 

金間:若者の性格次第なので、若者一人一人の個人を見て、まずは考えてあげてほしいというのが私の考え方。特に新人研修みたいな、その時はまだわからないが、配属されたら一人になるので、その時によく考えて若者をみてほしいのが前提。

 

金間:私は一つ目と二つ目はあまりおすすめしない。実は一つ目は導いてあげようとすることはやればやるほど、彼らはコミュニケーション能力が高いから自分たちの若いエネルギーを先輩や上司は搾取していると感じ、先輩とか上司が本当はやるべきこと、やりたくないことを自分たちにさせようとしているのではないかと見透かすような態度になり、コミュニケーションすればするほど、どんどん彼らは引いていく。あるいはテンプレートの演技で返される。

 

金間:私が一番大事だと思うのは二つ目の聞くっていうこと。なぜこれ進めないかというと、ちょっと見透かすって意味ではほぼ同じで、自分たちの味方だよ、いつも君たちの立場に立って考える人だよというアピールなんじゃないか?と若者は疑う。だから、聞く人は聞くという姿勢はそもそも見せないと思う。

 

金間:これは意外に思うかもしれないが、ここには付け加えたいことがある。自分がやるべきこと、やってみたいこと、やりたいことに皆さんご自身で若者とは関係なくやるべきではないかというのが私の提案。関わるには相当リスクが高いこともあるが、会議で誰かの意見が出たり、上司の意見に反対を唱えたりそういうことが大事だ。

 

武田:そういう姿勢を若者が一番見ている。

 

金間:会議では意見が割れることもある。挑戦しようとしたり、失敗したりするもあるということを、先輩は後輩に隠さずぜひ見せてほしいというのが私の提案。特に、40代以上はクールっていう概念が浸透しているので、それって実はクールじゃないと言いたい。悪いことは隠したがるが、それは若者には逆効果だと思う。失敗なども含めて見せた方がより若者からの尊敬とかリスペクトは集まると思う。

 

武田:取り組む姿勢で示していく?

 

金間:リスクを背負い何かに挑戦していることを見られていると意識してほしい。

「いい子症候群」を脱するためには?

武田:最後に、若い方々はどうしたら打ち破れるか?

 

金間:この本を読んだ10代20代の方から「本を読みました」というメッセージをもらう。自分はそうじゃないと思いたいけど、「いい子症候群」だということに気づいたという方がとても多い。どこかに変わりたいっていう意識があるからわざわざ私にメールなり手紙なり送れるっていうことだと思う。

 

金間:私はあまり人目に目立たないような行動から、主体的な行動を何か発揮してみるということをおすすめする。会議中であれば、メモの取り方を少し変える。メモ取る「いい子症候群」の方々は、資料にない上司が発した言葉を補足として余白にメモしてると思う。それをやめませんかと。

 

金間:疑問に思ったことをメモするという提案。簡単に、下線引いてはてなマークでもいい。これが主体性を発揮する第一歩になる。周りからはメモを取ってるようにしか見えないが、そこにメモをするという行動から、小さなトレーニングが始まる。おそらく会議終わった後、先輩にここを教えてもらっていいですか?と段々聞きたくなってくる。いずれこれらが行動に表れて、少しずつ気持ちが変わっていく。行動が変わることによって気持ちが変わっていくと思う。

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