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玄界灘に浮かぶ離島に若い姉弟がカフェを開いた理由

玄界灘に浮かぶ美しい島にこの秋、若い姉弟がカフェを誕生させた。古民家の改修に、島野菜を使ったメニュー作り…ディレクターが惚れ込んだ取材が、1時間のドキュメンタリー番組に実った。『しまカフェ~佐賀・加唐島~』=12月26日(月)午前10時半からRKBで放送=。この番組のプロデューサーでもあるRKB報道局の神戸金史解説委員が、RKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』で制作過程を報告した。    

情報番組の企画をドキュメンタリー化

RKBテレビ『タダイマ!』の企画で、迫真由美ディレクターが離島の若者を追いかけていました。映像がきれいで非常にいいなと思ったので、迫ディレクターと話をしてみると、ドキュメンタリー番組化への熱意が伝わってきたんです。

 

私は、解説委員のほかに「ドキュメンタリーエグゼクティブプロデューサー」という長い肩書きがありまして、RKBのトップから「若い制作者たちにドキュメンタリー番組を作ることを伝えていってほしい」と言われています。「じゃ、やってみようか」と番組化がスタートし、迫ディレクター渾身の1時間番組を来週月曜日に放送することになりました。「ナレーションの原稿はこの言葉の方がいいかねえ?」とか「この文字スーパーは要らないかな」と話しながら番組を作り上げていくのは、とても楽しかったです。

佐賀・加唐島を舞台にした姉弟の挑戦

加唐島(かからしま)は佐賀県で一番北、呼子港から船で15分のところにある人口100人ほどの小さい島です。多くの釣り人と猫好きな人が訪れる島。映像にはいっぱい猫を入れてみました。港から坂を1分ほど上がると見えてくるのが、白い塀の古民家です。
井川えりなさん(24歳)と弟・真太郎さん(20歳)が、自分たちの手で作り上げたカフェ。9月にオープンしています。建物の前に白い塀があって、そこに手作りのテーブルを7m半ぐらい取り付けています。手作りだから少し段差もあります。このオープンテラスからは港が見下ろせて、堤防にいる釣り客も見えます。非常に景色が良い。二人は、こんなことを言っていました。

迫ディレクター:ここから見る景色、最高ですね。

 

えりなさん:最高なんですよ。「あそこの釣り客、アジ釣ったな」って言いながら、コーヒーを飲む。

 

真太郎さん:(魚の種類が)分かるよね。

 

えりなさん:わかる、光り方で。
 

若い姉弟の飾らない面白さ

この番組の見どころの一つは、若い姉弟の飾らない面白さ。二人が「島に唯一あるカフェ」を紹介してくれたんです。

えりなさん:現在「島唯一のカフェ」です。

 

真太郎さん:テッテレー!
と紹介されたのは、自動販売機でした。
島の野菜を栽培して、特産のツバキ油をたっぷりかけたピザが、とてもおいしいらしいです。真太郎さんが初めて盛り付けに挑戦しました。面白いので、姉えりなさんのツッコミに注目して聞いてみてください。

真太郎さん:大丈夫なの? ピザをやろうっていうのに、こんいう不慣れなところを撮っていただいて。

 

えりなさん:それ、真太郎が不慣れとるだけや。

 

真太郎さん:だって、やったことないんです。試食専門なんで。
「不慣れだ」と言うのを、「不慣れとるだけや」。面白い。この姉弟、なかなか魅力があるんですよ。

島に助けられた少年時代

見どころの2つめ。島が、とにかく美しいんです。春の桜と菜の花。夏の海。秋のすすき。冬の椿。四季がとても魅力的な番組になっています。なぜここにカフェを作りたかったか、聞いてみました。

えりなさん:加唐島は、祖母と母の故郷なんですよね。小さいときから、お盆と正月は来ていて、大好きなんです。観光客さんの目的が「釣り」か「猫」なんです。それ以外にも、加唐島に行くきっかけの場所を作れたらな、と思って、まずはカフェを、おいしい島野菜を知ってほしいからなんです。まずは、島を知ってもらいたい。

 

真太郎さん:島はどこもどんどん人口が減っていって、過疎化が進んでいると思うんです。そこは、何とか食い止めたい。なくなってほしくないんですよ。これから学校に通ってくる子供たちにとっても、こういう場所はあった方がいいと思うんです。
家族は基本、福岡市に住んでいました。真太郎さんが中学生の時に体調を悪くして、スポーツ好きだったのにほとんどできなくなってしまいました。そんなとき「島留学」制度ができ、おばあさんとお母さんの実家も島にあるので、おばあさんと一緒に中学3年生の1年間、島の小中学校で過ごしたんです。

 

学校は、今や全校8人しかいません。その島で真太郎さんは過ごし、海や釣りが大好きになって、船乗りになろうと思ったんです。今は航海士になって、1年のうち何か月かは日本中の海のどこかにいます。戻ってきて、また島のカフェを作るお手伝い。思い入れがある島なんです。

真太郎さん:人生の分岐点……ここで大きく変わったなって思います。島の人たちにいろいろお世話になったので、今度は自分から何か恩返しできるものがあればと思って。島民の方も応援してくださっているので、その気持ちにも応えたい。
福岡に住みながらも守ってきた、築100年のお母さんの実家を改修してカフェにして「人が集まる場所を作れないか」と若い2人が取り組みました。全部手作りです。カメラが密着して、4か月かかったリフォームをずっと撮っています。クラウドファンディングを募り、近くの人からお手伝いしてもらう様子も出てきます。その人たちが、本当にいいですね。私も田舎の生まれなので、非常に密なこの世界はいいなと思いました。

悪戦苦闘のカフェづくり

見どころの3つ目は、えりなさんの悪戦苦闘。真太郎さんは時々海に出ていっていないし、えりなさんは1人残って、荷物を抱えては家まで持っていって「体、ムキムキになりましたー」なんて言っています。離島は思った以上に大変で、台風の被害もあって苦労していく姉弟の奮闘ぶりが描かれています。お母さんもおばあちゃんも手伝いに入っています。島と母親たちに抱かれて、若い2人が奮闘してるような、さわやかなドキュメンタリーになっています。ぜひご覧ください。
ドキュメンタリー番組『しまカフェ~佐賀・加唐島~』 RKBテレビ・10月26日(月)午前10時半~11時半
◎神戸金史(かんべ・かねぶみ)

1967年生まれ。毎日新聞に入社直後、雲仙噴火災害に遭遇。福岡、東京の社会部で勤務した後、2005年にRKBに転職。東京報道部時代に「やまゆり園」障害者殺傷事件を取材してラジオドキュメンタリー『SCRATCH 差別と平成』やテレビ『イントレランスの時代』を制作した。

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