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ロシア産石炭EUが輸入禁止へ~日本が倣えば意外なものが高騰!?

ラジオ
ウクライナでの民間人虐殺を受け、EUがロシアからの石炭輸入を禁止する新たな制裁案を発表した。この石炭禁輸が日本にも波及すれば、建築資材が高騰するおそれがある。RKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』に出演した日経エネルギーNext・山根小雪編集長が解説する。  

生活に直結するエネルギーの禁輸は大きな決断

山根小雪日経エネルギーNext編集長(以下、山根):4月5日、EUが第5弾となる追加の経済制裁案を発表しました。きょう6日にも発動すると言われているこの制裁案の中には、ロシア第2位のVTB銀行との取引停止や、船を港に入れないようにする、半導体の輸出禁止などいろいろなものがありますが、目玉はロシア産石炭の輸入禁止です。

 

坂田周大アナウンサー(以下、坂田):大きな決断と捉えていいんですか?

 

山根:はい。エネルギーは市民生活に直結していて、電気やガスの価格に大きな影響が出ます。すぐに影響が出るからこそ慎重論が強かったんですが、ブチャでのロシア軍によるウクライナ人虐殺が報道されたことを受けて、ロシアに対してもっと厳しく対応すべきだという世論が各国内で高まっています。ですから今回、石炭の輸入禁止に踏み込んだということです。

 

坂田:EUでは、石炭は主にどういうことに使われているんですか?

 

山根:鉄鋼を作るときのコークスなどさまざまな用途がありますが、やはり影響として大きいのは発電の燃料としてのものです。ロシアの石炭は世界の輸出量のうちの2割と、決して多いわけではないのですが、それでもエネルギーに触るというのは非常に大きな決断だったと思います。

 

坂田:いろんな影響が出るでしょうね。

 

山根:ただ原油や天然ガスに比べると、影響は小さいと言えます。制裁に対して慎重だったドイツでも、ロシア産の石炭依存度は25%ぐらいまで下がっています。手始めに石炭だったらいけるだろう、しかし、天然ガスや原油についてはまだまだ様子見という感じです。

 

坂田:天然ガスまで禁輸にすると影響は大きい?

 

山根:影響は全く異なります。特にヨーロッパは、暖房に直接天然ガスを使うんです。日本では、ファンヒーターやエアコンを使って暖房する家が多いと思いますが、欧州は各家庭にガスの配管が通っていて、直接熱源として天然ガスが使えます。すなわち、天然ガスが途絶えると、すぐに人命に関わってしまいます。凍死するおそれがあるということですね。ですから天然ガスの輸入禁止に関しては慎重になっているのだと思います。

自国に資源があるかどうかで制裁は足並みそろわず

坂田:しかし、EUとしては大鉈を振るったと?

 

山根:大鉈を振る入り口に立った感じです。経済制裁は国によってバラバラなんです。アメリカは3月8日だったと思いますけれども、すでに原油と石炭のどちらもロシアからの輸入を禁止しています。なぜアメリカはそれが可能かというと、アメリカに資源があるからなんです。自国で天然ガスや原油がとれる国なんですね。ですからロシアからの輸入が止まったとしても、国内経済や市民生活への影響は軽微だということで、さっさと踏み切ってるわけです。

 

坂田:うらやましいですね、日本からすると。

 

山根:日本は全く逆ですね。島国ですべての資源を輸入に頼っていますから。もちろん日本は、エネルギーについて何ら経済制裁には踏み切っていない状況ですね。

 

坂田:そうなってくると、国際協調といっても、手段がないですね。

日本でロシア産石炭の依存度が高いのはセメント業界

山根:EUが石炭に踏み込んだので、日本の石炭はどうなのかというところを見ていきます。日本はオーストラリアからの輸入が約70%で、ロシアからは約15%しか輸入していないんです。ただ、業界を個別に見ていくと、ロシア産石炭にものすごく依存しているところもあるんです。それはセメント業界です。

 

坂田:セメントですか?

 

山根:セメントの原料に石炭を使います。セメント業界の石炭の輸入元は50%がロシアなんです。業界第2位の住友大阪セメントだと80%。業界1位の太平洋セメントでも60%。これはかなりロシアに依存していますね。セメントからコンクリートを作ります。つまりこれは、建物を建築をするときの材料の高騰に直結しますね。ここのところ輸入木材が値上げされていて、建材ショックといわれていますが、ここにセメントも加わってくると思います。

 

坂田:木造だけでなくコンクリート造も建築費が上がると。

 

山根:上がるでしょうね。もう今は何もかも(物価が)上がって、上がらないもの見つからないぐらいの状況になってきています。

節約が海外からのエネルギー依存度を下げることに

坂田:今後の見通しは?

 

山根:戦争ですから、見通しは非常に難しいですね。でも何ができるのかといえば、いつ同じようなことが繰り返されるかも分からないですから、短期的なことだけでなく、中長期でいかに海外からのエネルギーの依存度を下げていくかということをみんなで考えることですね。そこには再生可能エネルギーという選択肢もあるでしょう。

 

坂田:私たちにできることは何でしょう?

 

山根:エネルギーを使う量をどうやって減らしていくかということです。日本はとても遅れている分野でもあるんですが、例えば住宅の断熱。日本の家屋はすごく断熱性能が低いので、暖房費が多くかかります。照明をLED電球に変えたり、冷蔵庫も買い換えたりすることで、省エネ性能は上がりますが、建物の断熱というのは、20年~50年の単位で家を建て替えていくときにやっていかなければいけないので、これは今すぐ始めても何十年もかかります。それでもエネルギー使う量を減らしていくということをやる必要があると思いますね。

 

坂田:今回のウクライナ問題によって、生活とエネルギーの問題があぶり出されてきたな、という気がしますね。

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