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海に、種をまく

熊本県立芦北高校は農業科、林業科、福祉科の3コースあり創立100年を超える伝統校。日頃、木の伐採などを学ぶ林業科には「アマモ班」という研究コースがあり「アマモの苗を育てて海に移植する」活動を22年続けている。作業は真冬の深夜。指導にあたる前島和也先生(45)は芦北高校林業科卒業。就任直後にアマモの活動がスタートした。

 

当初は「アマモって何?」手探りだったという。発足のきっかけは漁師からの依頼だった。漁獲量が減ったのはアマモの激減にあるとして再生を依頼してきたのだ。「アマモ」は浅瀬の沿岸に育つ植物で魚の産卵や小魚の生育の場となる。2003年に活動開始。17年後には当初の30倍7.5ヘクタールにまで拡大。

 

成功の要因の1つが高校独自の種の散布法「ロープ式下種更新法」の考案。林業技術を応用した高校生のアイデアで効率的に散布が行える。順調に増えたアマモ場だが2020年7月、豪雨による土砂に埋もれ約5ヘクタールが消滅。失意の中で高校生は「土砂は有機物がある」と考え、土砂のヘドロを使った「ポット苗」栽培に着手。種子からのアマモ栽培を成功させた。


アマモは「ブルーカーボン」としても注目され、企業間で「ブルーカーボンクレジット」の取引が開始。芦北高校はその取引の支援対象に選ばれ現在申請中だ。学生たちの林業の知恵と工夫が地元の海を、そして地球を救うことにつながっている。

学校:芦北高校林業科アマモ班
住所:熊本県葦北郡芦北町乙千屋20-2

取材後記

初めて知ったのは3年前。「林業科生徒がアマモを育てて表彰」。「アマモ?」「育てて表彰?」「それの何がスゴイ?」の「???」だらけの記事だった。芦北高校にあるアマモの研究室。朝に放課後に、生徒たちは顔を出し「アマモ」の様子をうかがう。「生きもの」だから。夏休みなど学校がない日もお世話にやってくる。生徒たちは「かわいいでしょ?」と微笑む。

 

長年「アマモ班」を担当する前島先生。「アマモのスゴさは海を再生させるだけではない」と言う。これまで担当した中には不登校や人との交わりが不得手な生徒も少なからずいたという。それがいつしか見知らぬ人ともコミュニケーションをとったり進んで発表したりするようになり、卒業後も社会人として活躍しているという。「アマモは人も再生させる、本当にアマモってスゴイんですよ!」と語る。

 

「地元の海の再生」からスタートした「アマモ栽培」。地元銀行にアマモの水槽を設置するなど、アマモを広める運動も行っている。現在進んでいる「ブルーカーボンクレジット」は地元銀行が芦北高校とアマモ研究を行っている大手ゼネコンを結び付け、その機材や知識でも高校生を支援するという仕組み。クレジットも「薄く、広く」が目標。多くの人に少しずつ購入してもらうことで「アマモ」への関心を広めることも大きな意義を持つと考えている。

 

「?」から始まった取材は「!」の連続だった。

「アマモ班」の活動を知る人々にも「!」が伝われば幸いだ。
 

(RKK熊本放送/久保田 泰代)

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