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関東大震災“虐殺”めぐり小池知事に忖度?東京都の検閲・差別問題

東京都の人権プラザで開催中のイベントをめぐり、「検閲ではないか」「差別に当たる」と大きな問題が起きている。背景には、関東大震災直後に起きた朝鮮人虐殺をめぐる、小池百合子都知事の言動がある。来年は大震災から100年。RKB東京報道部でこの問題を取材してきた神戸金史解説委員はRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』で、国際問題化する前に知事に方針転換してほしいと求めた。  

小池百合子都知事の言動 大きな問題はらむ

きょうは小池東京都知事の話をします。これはかなり大きな問題だと思っていますが、その内容を紹介する前に、まず私が5年前に制作したTBSラジオとの共同制作ドキュメンタリー、『SCRATCH 線を引く人たち』の一部をお聴きください。

1923年9月1日、関東大震災発生直後の大混乱の中で、「朝鮮人が暴動を起こした」「井戸に毒を投げ込んだ」などのデマが広がり、多くの朝鮮人や中国人が虐殺されてしまいました。例年、東京都の知事は、朝鮮人犠牲者に対する追悼のメッセージを送ってきましたが…。

 

ニュースキャスター「東京都の小池知事は、関東大震災で虐殺された朝鮮人を追悼する式典に、今年は追悼文を送付しない意向を……」

 

小池百合子知事は今回、メッセージを出しませんでした。

 

小池百合子・東京都知事「すべての方々への法要を行っていきたい、という意味から今回、特別な形での追悼文を提出するということは控えさせていただいた、ということでございます」

 

小池知事は、自然災害で亡くなった多くの方と、朝鮮人の犠牲者を、あえて区別することはないという立場を繰り返しました。

 

=RKB毎日放送・TBSラジオ共同制作『SCRATCH 線を引く人たち』(2017年12月29日、関東地区・北部九州エリアで放送)より=
これが、2017年に私が制作したドキュメンタリー番組の一節。小池都知事の態度は非常に衝撃的だったんです。1923年に起きた関東大震災50周年の年、1973年にこの追悼式典は始まっています。当時はまだ虐殺の目撃者がいっぱい生きていました。その式典に、歴代の都知事は追悼のメッセージを寄せてきました。あの石原慎太郎さんでさえも。

 

ところが小池さんが知事になってから、メッセージを送るのをやめてしまったのです。都知事が話していたように、自然災害で亡くなった多くの方と朝鮮人の犠牲者を「あえて区別する必要はない」と考えていて、虐殺自体を否定しているわけではありません。けれども一緒にしちゃっています。

 

日本史に残る憎悪犯罪(ヘイトクライム)、つまりある属性を持っている人たちを皆殺しにしてしまおう、というとんでもない黒い歴史なわけです。その悪質性や犯罪性がぼかされてしまっているんです。政治家が長年出していたものを止めたというのは、ただ「無くなった」ということじゃなくて、明確な政治的なメッセージだと考えるべきです。

 

これが5年前の話。ここからが今、東京都で起きている問題です。

東京都の人権部門が引き起こした人権問題

東京都人権プラザで美術作家の飯?由貴さんが、精神障害がある妹との関わりから制作した映像などを紹介する企画展を開いています。社会や医療や家族から抑圧されていた人の見ている世界、言葉を一緒に観てみようという映像作品などで、期間は8?30?~11?30?の4か月間です。

 

この企画展本体とは別に、附帯事業として飯山さんが制作した映像作品《In-Mates》の上映とトークが予定されていました。《In-Mates》は、戦前期の精神病院に入院していた朝鮮人患者らの診療記録から、ラッパーの詩やパフォーマンスを通して、彼らの心の葛藤を表す26分間の映像作品。

 

当時の東京がどのような場所であったのかを観客に想像してもらうため、作中では関東大震災時の朝鮮人などの虐殺事件が扱われていました。東京大学の教授がインタビューに応じて、朝鮮人などの虐殺事件がどういうものだったかを説明しています。

 

ところが「虐殺を歴史的事実とすることへの懸念」などを理由として、東京都総務局人権部が上映を禁止した、というのです。

 

10月28日に、飯山由貴さんたちが厚生労働省で記者会見を開きました。会見の中で、都の人権部が5月に、主管している都人権啓発センターに宛てて出したメールを紹介しているのです。司会者の声をお聴きください。

メール文面を引用します。

「関東大震災での朝鮮人大虐殺について、インタビュー内で『日本人が朝鮮人を殺したのは事実』と言っています。これに対して都ではこの歴史認識について言及をしていません」

 

とメールには書かれてありました。さらに、こちらのメールでは、関東大震災の朝鮮人追悼式典に、都知事が今年も追悼文を送らなかったという内容を記した朝日新聞の記事を参照したうえで、このように続きます。

 

「都知事がこうした立場をとっているにも関わらず、朝鮮人虐殺を『事実』と発言する動画を使用する事に懸念があります」

 

経緯(を示した会見資料)の8月2日をご覧ください。膠着状態の中、人権啓発センターと飯山さんの話し合いの席がもたれました。(東京都)人権部の職員が同席することはなく、人権啓発センター職員の口から「東京都の意向」という形で、「上映はできない」ということが改めて伝えられました。

 

この話し合いには私も参加しておりますが、ここで示された東京都の“意向”には、様々なルーツの人が生きている東京の実態が全く無視されているばかりか、深刻なヘイトクライムを助長しかねない態度がうかがわれました。

 

また、関東大震災で殺された朝鮮人の存在を否定するかような見解が示されたことにも、彼・彼女たちを二度殺すような言い方ではないかと、強い憤りを感じざるを得ませんでした。東京都人権部による、このような差別に基づく検閲は絶対に看過できません。
このように、都知事がはっきりしていない立場なので「虐殺を事実」と発言する動画を使用することに懸念がある、というメールが出ていたんです。

「否定論」の余地ない歴史的事実

映像内でのインタビューでは、東京大学大学院の外村大(とのむら・まさる)教授が「虐殺されたのは事実」だと言っています。外村教授も、会見に同席しています。

朝鮮人が虐殺されたことは多くの人が目の当たりにしており、それを見たり聞いたりした人が記録にとどめております。生き残った人たち、朝鮮人も日本人にも、それは大きなショックを与えました。加害者である日本人もそれについて記録を残しています。

 

このことは大変な問題であると考えます。人権と名の付く行政組織が、社会的に弱い人びとの生命を奪った行為が問題であるとはっきり言わない、そのような事実があるかどうかわからないと言うことは、もはや自分たちは人権を侵害されている人びとの「味方」ではないと述べているのと同じだと考えます。

 

そうであるならば、いままで、いかにヘイトスピーチなどがあったとしても、差別に反対してくれる人権施策があるはずだと行政を信頼していた人びとは、おそらく絶望してしまうはずです。このことは社会全体を毀損してしまうことにつながっていくと思います。
言うまでもなく、関東大震災の時に朝鮮人、中国人、障害者、地方出身者が「日本語がおかしい、朝鮮人だろう」と殺害されたことは歴史的な事実で、否定することは全くできません。もし、身の回りで「なかった」という人がいたら、その人は信用できない人だと考えていいです。「あったという意見もあるけど、なかったという意見もある」という“どっちもどっち”論でわからない、という人も信用しなくていい。これは、「あったこと」なんです。

 

ただ、人数ははっきりしません。最大6000人と言う人もいます。私は「どんなに少なく見ても、1000人以上」と控えめな言い方をしていますが、老若男女、子供まで殺されています。軍隊によって射殺された人もいます。政府もデマをあおり、当時の新聞も「朝鮮人が井戸に毒を入れた」とデマを流し、それがどんどん広がって、恐慌状態の中で「自分の地域を守らなければ」という意識でやってしまったんでしょう。こうした事実がどんどんあいまいになってきてしまっていることに、非常に危機感を持っています。

制作者は「小池都知事が差別を扇動」と真正面から批判

飯山由貴さんご本人の意見を、お聴きください。

約100年前、「朝鮮人」が虐殺されたこの東京では、現在も差別団体が街を練り歩き堂々とヘイトスピーチを叫んでいます。9月にはJR赤羽駅にて「朝鮮人コロス会」と書かれた落書きが見つかりました。また、ミサイル問題以降、朝鮮学校の生徒徒に対する嫌がらせ、暴行事件も続いています。

 

特定の民族への犯罪、暴力が「許される」という認識が形成されてしまう一因には、差別を放置し続けてきた、さらには煽動してきた政治家たちに大きな責任があります。

 

小池都知事のこれまでの姿勢は明確に差別の煽動であり、しかも行政の内部での差別の煽動につながっていることを小池都知事及び東京都は重く受け止めていただきたいです。

 

また、関東大震災朝鮮人犠牲者追悼式典への追悼文の送付を再開してください。東京都総務局人権部職員らは、憲法第21条2項に定められた検閲の禁止とともに、15条に規定された「全体の奉仕者」であることに真摯に向き合い、《In-Mates》への検閲という、都知事への忖度(そんたく)により行った歴史修正と在日コリアンへの差別を認め、差別を扇動しうる行いを謝罪してください。
東京新聞によりますと、都の人権部は取材に応じて「精神障害者の人権という(企画展の)趣旨に沿わなかった」ことが理由だと、小池知事への忖度を否定したそうです。しかし職員が「朝鮮人虐殺が歴史家の見解が分かれる史実だと意識し、内容を確認する意味でメールを送った」ことは認めています。

 

これは、すべて小池都知事の態度がもたらしたものではないかと私は感じていて、非常に問題があると思っています。事実に対して「なかった」というデマを並べて、歴史家の見解が分かれる史実だと意識したという言い方は、忖度によって起きた歴史への冒とく行為、亡くなった人々の生命を軽んじるものだと思います。

自らの言動で国際的注目を集めてしまった知事

実は、小池都知事のこうした態度がヘイトスピーチにも影響しています。私が東京で取材した時(2019年)は追悼式典の会場でのすぐ横で、虐殺否定派の人たちが大きな音声で式典を妨害するようなことをしていました。例えば「日本人が虐殺されたのが真相だ」と叫ぶとか。それから、(朝鮮左翼による)「テロが実行されたことに対する自警行為はあったけれど、虐殺はなかった」とか。叫んでいる声が、式典の会場を汚している様子を、私は取材してきました。聞きながら私は、日本人の1人としてとても恥ずかしくなったんですね。結果的に、そういったヘイトを後押しする形になっている小池都知事の不見識の罪は、とても大きいです。

 

来年が、1923年に大震災が発生して100年です。全体の追悼式典がきちんと開かれるでしょう。その中で彼女がどう虐殺に触れ、どんなふうに謝罪するのか。追悼文を出さなかった6年間の行為によって、彼女の行動はおそらく国際問題になってくるだろうと思うんです。

 

出しておけばよかったのに、出さなかったことで「今回はどうするか」と注目され、言わなかったら大きな国際問題になる…。今までの不見識を改めてもらって、無用で非道なトラブルを起こさないようにしてもらいたい、と強く思っています。これは日本人にとって、とても大事な問題です。

 

神戸金史(かんべかねぶみ) 1967年生まれ。毎日新聞に入社直後、雲仙噴火災害に遭遇。福岡、東京の社会部で勤務した後、2005年にRKB毎日放送に転職。東京報道部時代に「やまゆり園」障害者殺傷事件を取材して、ラジオ『SCRATCH 差別と平成』(放送文化基金賞最優秀賞)やテレビ『イントレランスの時代』(JNNネットワーク大賞)などのドキュメンタリーを制作した。
 

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